早河シリーズ序章【白昼夢】
 間宮誠治は一見すると紳士的で温厚な人間に見える。だがそれはあの男が装っている仮面に過ぎない。
仮面の下の間宮の素顔は狂った悪魔だ。間宮は小児性愛者。
彼は成熟していない十歳以下の幼女に異常な性的執着を持っていた。

 父親の古くからの友人であった間宮誠治はあかりが幼い頃よりアメリカのあかりの自宅を訪ねて来ていた。

優しい間宮のおじさま、その仮面が剥がされたのはあかりが五歳の夏。間宮の性的嗜好はあかりに向けられ、両親の留守を狙われてあかりは五歳で間宮に処女を奪われた。

 まだ子供だったあかりは間宮に何をされているのか、わからなかった。ただ痛くて気持ち悪くて、泣いていたことは覚えているが、それ以上の記憶は封印した。

“お父さんとお母さんにはナイショだよ。もし話したらあかりはお父さんにもお母さんにも嫌われてしまうよ”

間宮に耳元でそう囁かれたことだけは、今でも鮮明に覚えている。

 思春期を迎える頃。アメリカの友人と見た成人向け恋愛ドラマのベッドシーンで、自分と間宮が行っていた行為の意味を知った時は、戦慄してドラマの内容が頭に入ってこなかった。
そして自分と間宮の関係が異常だとあかりは知った。

 幼女趣味のくせに、あかりが初潮を迎えて成人女性の体つきに近付いても間宮はあかりを手離さず執着した。あかりは間宮の“可愛いお人形さん”だった。

 あれは高校一年生の夏休み。間宮に連れられてあかりは初めて、静岡の沖田オーナーが経営するペンションに宿泊した。

間宮とあかりの部屋は一階のテラス付きスイートルーム。
間宮は未婚だが、彼があかりを娘のように可愛がっているとの周囲の認識があり、間宮とあかりが同室でも誰も不思議に思わない。

 日中でも部屋のカーテンを締め切った薄暗い室内で行われるおぞましい行為に誰も気付かない。
入浴も一緒、眠る時も一緒、身体を触られてもあかりは拒むことを許されない。

自分だけ大人になっても間宮から解放されない。いつしかあかりはこの男をいつか殺してやりたいと殺意を抱くようになった。

 アメリカで“キング”と出会ったのは十七歳の冬だった。キングに出会い、あかりは“あの組織”に招かれた。

 組織に属した後に間宮を調べてわかったことだが、間宮はアメリカで旅行客の幼い子供を誘拐して性犯罪まがいなことを繰り返していた。

あの男は推理小説家として紙の上でなら何人も人を殺しているが、現実でも殺人こそしていなくとも狂った犯罪者だ。間宮のような人間はチャイルドマレスターと呼ばれている。

間宮誠治は組織の情報を嗅ぎ回る目障りな存在であり、あかりがこの世で最も殺したい憎い男。
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