早河シリーズ序章【白昼夢】

side.B

 人の居なくなったホームでキングは苦笑して、美月のために外したサングラスをかけ直した。

『まさかこの私がラストクロウの殺害命令を下したとは彼女も思ってはいないだろう。しかし我ながら衝動的な行動をしてしまったものだ』

黒いトレンチコートのポケットに両手を入れて、彼は視覚障害者誘導用の黄色いブロックを踏みしめて遊んでいた。

『ラストクロウが惚れたのもわかる。純粋で無垢なのに芯は強い。不思議な少女だ』

{間もなく1番線に列車が参ります}

 島式ホームの2番線の反対側、1番線に列車の到着を告げるアナウンスが入る。電車と呼ばれる乗り物を普段から利用しない彼は初めて一人で電車に乗る子供みたいに、近付いてくる電車に心を躍らせた。

『ラストクロウ。君が最期に愛したものは光だったのかな。いや……天使か』

 1番線に列車が入ってくる。その列車が走り去った時にはもうホームのどこにもキングの姿はなかった。

 ──これはまだ序章。プロローグが終わったところ。

 砂時計の砂が落ちてゆく
落下した砂は色とりどりの金平糖に姿を変えた
光と闇の人形劇の主役は闇に堕ちた天使

 舞台は花の園、雨に濡れた紫陽花の楽園を揚羽蝶がひらひらと舞う

 砂時計の砂がすべて落ちた
さぁ、開演だ
雷鳴の轟きで幕が上がる

 満月と夢と罪と愛
それは白昼夢のプロローグ
観客は夢と現実の狭間を彷徨いながら第一幕の始まりを待つ

 第一幕は並んで歩く二つの影法師
こちらとあちらの違いはなぁに?

 マリオネットが現れた
マリオネットは問いかける
この世で最大の謎を。

『君はこの世に神はいると思う?』

人の数だけ答えがあるこの問題、どれだけ面白い答えが聞けるかな?

 混沌《カオス》の中心に“彼”はいる。
彼は玉座に座り、君の答えを待っている。


マリオネットを操りながら、待っている。



白昼夢 ーENDー
※ここまでが早河シリーズ第一幕【影法師】に至る序章の物語。
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