早河シリーズ序章【白昼夢】
 宿泊者の夕食が終わり、自分の夕食を食べ終えた美月は広間の掃除に取り掛かった。
掃除をする美月の前に学生メンバーのひとりの竹本晴也が立ち塞がる。

『この後、俺の部屋に来ない?』
「すみません。仕事があって忙しいんです」
『君はただの手伝いだろ? オーナーの姪なんだし、サボって遊んでも厳しく怒られないよ』

竹本の自分勝手な言い分に腹が立ってきて仕方ない。

(啓徳大学って偏差値高くて頭の良い人が通うイメージあったけどこんなチャラチャラした奴ばっかりなの?)

あの隼人と比べてはいけないが容姿の点で竹本は隼人に劣る。容姿端麗な隼人でさえも彼の節操のなさに頭に来るのだから、相手が竹本ならば尚更だ。

 冷めた一瞥を竹本に向けて美月は掃除を進める。全くなびかない美月の態度に苛立った竹本は舌打ちして彼女の腕を強く掴んだ。

「何するんですかっ! 離して!」
『ちょっと可愛いからっていい気になるなよ。俺に逆らえばこんなペンションすぐに潰せるんだよ』
「どういう意味ですか?」
『そのままの意味さ。俺には逆らわない方がいいってこと。俺に従えばいい思いたくさんさせてやる。なんなら小遣いもやろうか? いくら欲しい?』

脅しまがいな言葉に困惑と嫌悪感が増す。

(お金貰えば私が言うこと聞くと思ってるの? この人、木村さんより質が悪いかも)

『じゃあどれだけイイオモイか俺に教えてくれるか?』

 よく通るその声に反応した竹本と美月が広間の入り口を見るとそこには隼人と里奈が立っていた。

 隼人の登場にバツが悪くなった竹本が瞬時に掴んでいた美月の腕を離す。竹本に強く掴まれた美月の腕は赤くなっていた。

『これはこれは。キングのご登場か。何か用ですか?』
『お前に用はねぇよ』

 隼人は竹本のことなど気にも留めずに里奈と一緒に広間のソファーに座った。
< 16 / 154 >

この作品をシェア

pagetop