早河シリーズ序章【白昼夢】
二人は木と紙の匂いに包まれた書斎を一周して元の場所に戻る。図書館のように配置された長机の上に広がるノートと問題集に佐藤は気がついた。
『これは宿題? もしかして勉強の邪魔しちゃった?』
「そんなことないです。実はサボって本を読んでいました」
『ははっ。高二の数学か。懐かしいな。俺、数学は得意だったんだ』
彼は開きっぱなしで手付かずの数学の問題集を覗き込んだ。
「数学得意なの羨ましいです。私は数学苦手……」
『美月ちゃんはここで苦戦しているね。たとえばこれはね……』
佐藤が机に転がる美月のシャープペンを握ってノートにスラスラと数式を綴った。
『ここから解いてみるといいよ』
佐藤に言われて美月は彼が書いた数式に倣ってやりかけの問題を解いた。それまで時間がかかって解けなかった問題が数分で解を導き出せてしまった。
「凄い。学校の先生が教えてくれる解き方よりも簡単に解けた。魔法みたい。佐藤さん凄い凄い!」
『本当は学校で教わる解き方がいいと思うけど試験でならこの解き方も使えると思うよ』
「ありがとうございます! あの……もしよければもっと教えてもらいたいんですけど…あっ、でも佐藤さんお仕事ありますよね……」
意気消沈する美月の頭を佐藤が優しく撫でる。
『今回のメインは間宮先生と学生だから俺はけっこう暇なんだ。仕事の合間でよければまた教えてあげるよ』
「ほんとですかっ? やったぁ」
華が咲くような明るい笑顔になる美月を見て佐藤も自然と微笑んでいた。しばらく二人で数学の問題を解き、午後9時半に佐藤は自室に戻った。
美月は胸に手を当てる。心臓がドキドキと鳴っていた。
(佐藤さん……優しくて穏やかで大人の男性って感じがする)
心の中で何かが変わっていく予感
ゆっくり、ゆっくり、穏やかに静かに芽生える何か。
隼人や竹本にはなかったものが佐藤にはある。それは何だろう……
『これは宿題? もしかして勉強の邪魔しちゃった?』
「そんなことないです。実はサボって本を読んでいました」
『ははっ。高二の数学か。懐かしいな。俺、数学は得意だったんだ』
彼は開きっぱなしで手付かずの数学の問題集を覗き込んだ。
「数学得意なの羨ましいです。私は数学苦手……」
『美月ちゃんはここで苦戦しているね。たとえばこれはね……』
佐藤が机に転がる美月のシャープペンを握ってノートにスラスラと数式を綴った。
『ここから解いてみるといいよ』
佐藤に言われて美月は彼が書いた数式に倣ってやりかけの問題を解いた。それまで時間がかかって解けなかった問題が数分で解を導き出せてしまった。
「凄い。学校の先生が教えてくれる解き方よりも簡単に解けた。魔法みたい。佐藤さん凄い凄い!」
『本当は学校で教わる解き方がいいと思うけど試験でならこの解き方も使えると思うよ』
「ありがとうございます! あの……もしよければもっと教えてもらいたいんですけど…あっ、でも佐藤さんお仕事ありますよね……」
意気消沈する美月の頭を佐藤が優しく撫でる。
『今回のメインは間宮先生と学生だから俺はけっこう暇なんだ。仕事の合間でよければまた教えてあげるよ』
「ほんとですかっ? やったぁ」
華が咲くような明るい笑顔になる美月を見て佐藤も自然と微笑んでいた。しばらく二人で数学の問題を解き、午後9時半に佐藤は自室に戻った。
美月は胸に手を当てる。心臓がドキドキと鳴っていた。
(佐藤さん……優しくて穏やかで大人の男性って感じがする)
心の中で何かが変わっていく予感
ゆっくり、ゆっくり、穏やかに静かに芽生える何か。
隼人や竹本にはなかったものが佐藤にはある。それは何だろう……