早河シリーズ序章【白昼夢】
佐藤がペンションに戻ると、ペンションの玄関前の庭にはここに宿泊するほぼ全員が集まっていた。
都会よりは気温が低いと言っても夏場であることに変わりはなく、日が高くなるにつれて気温も上昇してくる。そんな状況下で暑さ嫌いで有名な間宮誠治までもが玄関先で腕組みをして立っていた。これはただ事ではない。
佐藤に気付いた福山編集長が片手を挙げた。
『おお、佐藤。すまないな』
『いいえ……。それで、竹本くんが居なくなったと言うのは?』
『竹本くん、朝食に来なかっただろ? あの後で木村くん達が部屋に様子を見に行っても応答がなかったそうだ。携帯の電源も入っていない、部屋の内線にも出ない。10時を過ぎても起きて来ないから体調でも悪いのかと思って、沖田に頼んで合鍵で竹本くんの部屋を開けたんだ。そうしたら竹本くんは部屋に居なかった』
福山が隼人と目を合わせる。それを合図と受け取った隼人が話を引き継いだ。
『竹本の部屋には荷物はそのままあったんですけどアイツの携帯と部屋の鍵がどこにもなくて。今日は誰も竹本の姿を見てないって言うし、皆で一度この辺りを捜してみたんです。でも竹本は見つかりませんでした』
『昨日泊まりに来た刑事がまだいたから、竹本くんのことを警察に届けるべきか相談したんだ。今の状況だとふらっとどこかに出掛けているだけかもしれない。とりあえず刑事と沖田が今も竹本くんを捜しに出ているんだが、俺達はこの後の討論会をどうするか考えていたんだ』
隼人と福山の説明で大方の状況を飲み込めた佐藤もただ頷くしかできない。皆が沈黙したその時、猫の鳴き声が響いた。
「あら、リン? どうしたの? 怪我してるじゃない!」
現れた白猫のリンを抱き上げて冴子は驚いた。 リンの前肢の毛が赤黒く染まっている。その赤黒い汚れは乾いていてリンの毛にこびりついている。
冴子が前肢に触れてもリンは痛がる素振りはなく、じっと冴子を見つめている。何かを訴えかけるように。
麻衣子とあかりも冴子に抱かれるリンの側に寄った。
「怪我じゃないですよ。ただ汚れているだけじゃないのかな」
麻衣子がリンの前肢の赤黒く染まる部分を指差す。あかりがリンの前肢にそっと触れた。
「ホントだ。傷はついてないですね。でもこれ誰かの血みたい。乾いた血のような色してる」
あかりの不吉な言葉を聞いた誰もが嫌な予感を感じた。
「ちょっとあかり……っ! 変なこと言わないで」
里奈が顔をしかめるが、彼女もあかりの意見を否定しない。
『あかりの言う通りだね。私の小説ならこの状況だと間違いなく死体が現れる』
『ははっ……先生までそんなご冗談を……』
微笑を浮かべる間宮の不謹慎な発言も冗談か本気か定かでない。さすがの福山編集長も顔を青ざめさせ、皆の間に重たい空気が流れた。
『冴子! 冴子いるかっ?』
息切れをして汗だくになった沖田オーナーが庭に飛び込んで来る。冴子は芝生に手をつく夫に駆け寄った。
「あなたどうしたの?」
沖田は首に巻いたタオルで額や首筋の汗を拭い、途切れ途切れにその事実を皆に告げた。
『ガレージで……竹本くんが……死んでる』
第一章 END
→第二章 眠り姫 に続く
都会よりは気温が低いと言っても夏場であることに変わりはなく、日が高くなるにつれて気温も上昇してくる。そんな状況下で暑さ嫌いで有名な間宮誠治までもが玄関先で腕組みをして立っていた。これはただ事ではない。
佐藤に気付いた福山編集長が片手を挙げた。
『おお、佐藤。すまないな』
『いいえ……。それで、竹本くんが居なくなったと言うのは?』
『竹本くん、朝食に来なかっただろ? あの後で木村くん達が部屋に様子を見に行っても応答がなかったそうだ。携帯の電源も入っていない、部屋の内線にも出ない。10時を過ぎても起きて来ないから体調でも悪いのかと思って、沖田に頼んで合鍵で竹本くんの部屋を開けたんだ。そうしたら竹本くんは部屋に居なかった』
福山が隼人と目を合わせる。それを合図と受け取った隼人が話を引き継いだ。
『竹本の部屋には荷物はそのままあったんですけどアイツの携帯と部屋の鍵がどこにもなくて。今日は誰も竹本の姿を見てないって言うし、皆で一度この辺りを捜してみたんです。でも竹本は見つかりませんでした』
『昨日泊まりに来た刑事がまだいたから、竹本くんのことを警察に届けるべきか相談したんだ。今の状況だとふらっとどこかに出掛けているだけかもしれない。とりあえず刑事と沖田が今も竹本くんを捜しに出ているんだが、俺達はこの後の討論会をどうするか考えていたんだ』
隼人と福山の説明で大方の状況を飲み込めた佐藤もただ頷くしかできない。皆が沈黙したその時、猫の鳴き声が響いた。
「あら、リン? どうしたの? 怪我してるじゃない!」
現れた白猫のリンを抱き上げて冴子は驚いた。 リンの前肢の毛が赤黒く染まっている。その赤黒い汚れは乾いていてリンの毛にこびりついている。
冴子が前肢に触れてもリンは痛がる素振りはなく、じっと冴子を見つめている。何かを訴えかけるように。
麻衣子とあかりも冴子に抱かれるリンの側に寄った。
「怪我じゃないですよ。ただ汚れているだけじゃないのかな」
麻衣子がリンの前肢の赤黒く染まる部分を指差す。あかりがリンの前肢にそっと触れた。
「ホントだ。傷はついてないですね。でもこれ誰かの血みたい。乾いた血のような色してる」
あかりの不吉な言葉を聞いた誰もが嫌な予感を感じた。
「ちょっとあかり……っ! 変なこと言わないで」
里奈が顔をしかめるが、彼女もあかりの意見を否定しない。
『あかりの言う通りだね。私の小説ならこの状況だと間違いなく死体が現れる』
『ははっ……先生までそんなご冗談を……』
微笑を浮かべる間宮の不謹慎な発言も冗談か本気か定かでない。さすがの福山編集長も顔を青ざめさせ、皆の間に重たい空気が流れた。
『冴子! 冴子いるかっ?』
息切れをして汗だくになった沖田オーナーが庭に飛び込んで来る。冴子は芝生に手をつく夫に駆け寄った。
「あなたどうしたの?」
沖田は首に巻いたタオルで額や首筋の汗を拭い、途切れ途切れにその事実を皆に告げた。
『ガレージで……竹本くんが……死んでる』
第一章 END
→第二章 眠り姫 に続く