早河シリーズ序章【白昼夢】
第二章 眠り姫
――“ガレージで竹本くんが死んでる”――
沖田からの衝撃的な知らせを受けて一同はガレージに向かった。ガレージはペンションの裏手を回った場所にある。
ガレージに到着するとちょうどそこから昨夜の不意の来客の刑事が現れた。
『ここは殺人現場になります。皆さん現場には入らないでくださいね。それと奥さん』
彼は一同がガレージになだれ込もうとするのを両手で制し、冴子を呼ぶ。
『あちらに姪御さんがいます。ペンションに連れて帰ってあげてください。第一発見者は彼女なんです』
「美月が?」
刑事が手で示す先に美月が座り込んでいた。美月の麦わら帽子が地面に落ちている。冴子は慌てて美月に駆け寄った。
「美月! 大丈夫?」
「叔母さん……」
生け垣の側に座り込んで顔を伏せていた美月は冴子にしかみついた。彼女の身体は震えていて顔色も悪い。
『冴子、美月を連れて先に戻っていてくれ。ショックを受けてひとりじゃ歩けないようだ』
沖田も姪の様子を心配している。冴子は頷き、美月を支えて立ち上がらせた。
「……隼人。私も冴子さんについていく。美月ちゃんが心配だし、それに……」
麻衣子が躊躇《ためら》いがちにガレージの方向を見る。ガレージ内部は薄暗くここからでは何も見えないが、沖田オーナーや刑事の話が事実ならばあそこには竹本の死体がある。
『そうだな。麻衣子は冴子さんの手伝いを頼む。里奈と沢井も先に戻ってろ。お前らは見ない方がいい』
隼人の指示で女性陣三人は冴子と美月を追ってペンションに引き返した。この場に残った者は学生の隼人、渡辺、青木、小説家の間宮、出版社の福山編集長、佐藤、カメラマンの松下、そして沖田オーナーと刑事。
『どなたか身元の確認をお願いできますか? 全員でなくてもかまいません。ガレージ内には入らないよう遠目からになりますが』
刑事に言われて隼人は進み出た。学生側のリーダーとしては後輩の竹本の身元確認は自分の役割だ。企画責任者として福山も隼人に続く。
隼人と福山はガレージの入り口に立った。最初は薄暗く何も見えなかったガレージも目が慣れてくると視界がはっきりしてくる。
ガレージに停まる一台の車。車の下に出来た赤黒く乾いた血溜まり、その中央に男が仰向けに倒れていた。
福山が口元を押さえて短い呻き声をあげる。辺りに充満する血の匂いに耐えて隼人はその者の最期の姿を凝視した。
目は見開き、表情は激しく歪み、両手を大の字にしたまま壊れたロボットのように動かない。
顔が苦悶の表情で変形しているがその者は間違いなく部屋から姿を消した大学生、竹本晴也だった。
沖田からの衝撃的な知らせを受けて一同はガレージに向かった。ガレージはペンションの裏手を回った場所にある。
ガレージに到着するとちょうどそこから昨夜の不意の来客の刑事が現れた。
『ここは殺人現場になります。皆さん現場には入らないでくださいね。それと奥さん』
彼は一同がガレージになだれ込もうとするのを両手で制し、冴子を呼ぶ。
『あちらに姪御さんがいます。ペンションに連れて帰ってあげてください。第一発見者は彼女なんです』
「美月が?」
刑事が手で示す先に美月が座り込んでいた。美月の麦わら帽子が地面に落ちている。冴子は慌てて美月に駆け寄った。
「美月! 大丈夫?」
「叔母さん……」
生け垣の側に座り込んで顔を伏せていた美月は冴子にしかみついた。彼女の身体は震えていて顔色も悪い。
『冴子、美月を連れて先に戻っていてくれ。ショックを受けてひとりじゃ歩けないようだ』
沖田も姪の様子を心配している。冴子は頷き、美月を支えて立ち上がらせた。
「……隼人。私も冴子さんについていく。美月ちゃんが心配だし、それに……」
麻衣子が躊躇《ためら》いがちにガレージの方向を見る。ガレージ内部は薄暗くここからでは何も見えないが、沖田オーナーや刑事の話が事実ならばあそこには竹本の死体がある。
『そうだな。麻衣子は冴子さんの手伝いを頼む。里奈と沢井も先に戻ってろ。お前らは見ない方がいい』
隼人の指示で女性陣三人は冴子と美月を追ってペンションに引き返した。この場に残った者は学生の隼人、渡辺、青木、小説家の間宮、出版社の福山編集長、佐藤、カメラマンの松下、そして沖田オーナーと刑事。
『どなたか身元の確認をお願いできますか? 全員でなくてもかまいません。ガレージ内には入らないよう遠目からになりますが』
刑事に言われて隼人は進み出た。学生側のリーダーとしては後輩の竹本の身元確認は自分の役割だ。企画責任者として福山も隼人に続く。
隼人と福山はガレージの入り口に立った。最初は薄暗く何も見えなかったガレージも目が慣れてくると視界がはっきりしてくる。
ガレージに停まる一台の車。車の下に出来た赤黒く乾いた血溜まり、その中央に男が仰向けに倒れていた。
福山が口元を押さえて短い呻き声をあげる。辺りに充満する血の匂いに耐えて隼人はその者の最期の姿を凝視した。
目は見開き、表情は激しく歪み、両手を大の字にしたまま壊れたロボットのように動かない。
顔が苦悶の表情で変形しているがその者は間違いなく部屋から姿を消した大学生、竹本晴也だった。