早河シリーズ序章【白昼夢】
 事の展開を見せたのは質問が隼人に及んだ時だ。

『俺は彼女と一緒にいました』

隼人は隣の里奈と視線を合わせる。上野は隼人と里奈の交互に素早く視線を走らせた。

『それは木村さんの部屋で、と言う事ですか?』
『ええ。俺の部屋で朝まで一緒でした』

その言葉の示す意味を上野も他の者達も理解していたが、当の隼人は恥じることも悪びれることもなく淡々と受け答えに応じている。

『眠ったのは里奈が先でしたね。俺が寝たのは日付が変わってからなので』
『具体的には何時頃に?』
『音楽聴いたりメールしたりしていたから1時は過ぎていたかと。疑うのならメールの履歴も見せますよ』

 上野はその場で隼人の携帯電話を受け取り、メールの送受信欄の時間を確認した。確かに、日付が今日に変わった深夜1時過ぎまで隼人は複数人とメールのやりとりをしている。

『俺が起きていた間、里奈は一度も起きていません。ただ俺が眠った後はわかりませんね。相手を起こさないようにベッドを抜け出して犯行を行うことは可能です。このトリックは間宮先生の作品でありましたよね?』
『そうそう。あれは女が旦那に睡眠薬を飲ませて旦那が眠った女はベッドを抜け出して隙に夜な夜な猟奇殺人を繰り返すんだ。こうなると床を共にしていたとしても何の証明にもならないことが証明されてしまうね』

昨晩の夕食時に隼人と間宮はトリックについての高度な議論を交わして打ち解けていた。隼人が自作の内容を覚えていたことで巨匠はご満悦の表情だ。
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