早河シリーズ序章【白昼夢】
 隼人と里奈以外の渡辺亮、青木渡、加藤麻衣子、沢井あかりは自室でひとりで寝ていたと答えた。

『では次になぜ竹本さんが殺されなければならなかったのか、つまり殺人動機についてお聞きします』
『動機なら里奈が怪しいな』

渡辺が里奈を名指しする。里奈は眉間にシワを寄せて渡辺を睨み付けた。

「なんで私なのよ!」
『竹本にしつこく言い寄られてただろ。それに竹本は隼人を敵視してた。隼人が大好きなお前にとっては竹本は目障りな存在だったんじゃないか?』

渡辺の棘のある言葉に里奈が激怒する。

「でもそれなら渡辺だって怪しいじゃない」
『なんだと?』
「竹本から借金してたでしょ?」

里奈は勝ち誇った顔で嘲笑う。今度は渡辺も怒りの形相になった。

『竹本から借金してたのは俺だけじゃねぇぞ。青木、お前も竹本に金借りてたよな?』

話の矛先を向けられた青木は不愉快そうに眼鏡に触れた。

『まぁ……。でも竹本が目障りだったのはサークルの全員と言うと語弊がありますが、ほとんどのメンバーが竹本をうっとうしく思っていましたよ』
『ああ。けど俺には里奈が一番竹本をうざかっていたように見えたな』
「冗談じゃない! 私は殺してない!」

里奈が立ち上がって金切り声をあげた。里奈と渡辺の口論で広間が一触即発の空気に包まれる。

『よせよ、二人とも』

 成り行きを静観していた隼人の冷静な一声がこの一触即発の空気を切り裂いた。彼は里奈の腕を引いて彼女をソファーに座らせる。

『上野さん、すみません。コイツらも気が立ってイライラしているみたいで』
『いえいえ。無理もないですよ』

隼人の詫びに上野はゆるくかぶりを振り、渡辺と里奈、話を振られてとばっちりを受けた青木の話を書き込んだ。

『まず渡辺さん。今の話から察するに、竹本さんは金銭面では羽振りがよかったと解釈してよろしいですか?』
『……ええ。金なら捨てるほどあると言って。俺もつい借りてしまうことはありましたけど、簡単に金を貸すくせに指定した期日までに返さないとネチネチ催促がうるさくって、最近の貸し借りはあんまり……』
『なるほど。次に佐々木さん。竹本さんから言い寄られていたとは本当ですか?』

上野に名前を呼ばれて里奈はノースリーブで露出した肩をビクッと震わせた。

「本当……です。だけど食事に誘われたりその程度で、全部断っていました。サークルの活動以外で竹本くんと個人的に会ったことはありません」

里奈は落ち着きなくネイルアートを施した派手な爪を触っている。彼女は時折、横にいる隼人を気にして彼の顔色を窺っていた。

『竹本さんが木村さんを敵視していたとの話もありましたが……』

話が隼人に向けられる。隼人は小さく溜息を漏らして答えた。

『何故か知らないけどそうらしいですね。アイツが俺に敵意を持つ理由なんて知りませんけど』
『木村さんご自身は竹本さんをどう思われていました?』
『反論はするくせに自分では何も出来ない口だけの人間。相手にするだけ時間の無駄だと思っていましたよ』

 隼人達の証言で被害者、竹本晴也の人物像がおぼろげに見えてきた。死人に口無しとは言うが生前の竹本はお世辞にも善良な人間とは言えないらしい。
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