早河シリーズ序章【白昼夢】
 会報誌を読み終えた間宮は懇意にしている並木出版の福山編集長にある相談を持ち掛ける。
――これを作った学生と話がしたい。と。

福山はそれならば間宮と学生達を対談させ、対談模様を並木出版発行の雑誌で特集してはどうかと提案した。あかりを窓口にして啓徳大学ミステリー研究会にもその旨は伝わり、話はすぐにまとまった。

 啓徳大学ミステリー研究会の夏の合宿も兼ねて、8月4日から8月8日の五日間に静岡県のペンションで推理小説家、間宮誠治とミステリー研究会メンバーの推理討論会の開催が決定した。
開催場所の静岡のペンションは福山編集長の友人が経営している。偶然にもそのペンションは間宮とあかりが何度も訪れていた定宿だった。

 バスの後方は学生達のお喋りで賑わっている。

「あかりちゃん、そこのペンションに友達がいるんだよね」

 ミステリー研究会副会長の加藤麻衣子が隣にいる沢井あかりに聞く。あかりはまだ幼さの残る人懐っこい微笑みを麻衣子に返した。

「はい。ペンションオーナーの姪っ子さんで、私の四つ下なので今は高校生ですね」
『沢井ー。その子可愛い?』

あかりと麻衣子のすぐ後ろの座席の渡辺亮が背もたれから顔を覗かせた。あかりを首を後ろにひねって渡辺を見上げる。

「私もあの子が中学生の時以来会っていないですけど……美人さんな顔立ちの子ですよ。でも渡辺先輩、あの子に変なことしないでくださいね?」
『なんだよそれ。俺が女の子に変なことするような男に見える?』
「見えますね」
『即答で言うな! どっちかって言うと要注意人物はあいつだろ? な、隼人。美人の高校生がいるってさ』

 渡辺が“あいつ”と名指しした人物はバスの一番後ろの座席にいた。
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