早河シリーズ序章【白昼夢】
午後7時[二日目・夕食]

『トンネルの復旧ですが早くとも3日後まではかかるそうです』

 上野刑事がダイニングを見渡して告げるとダイニングに集う一同は落胆の表情を浮かべた。3日後まではここから動けないことが確定してしまった。

『最初の予定通り、8日まではここに留まるしかないってことですね』

味噌汁のお椀を置いて隼人が呟く。

 昨日の夕食は洋食だったが今夜は典型的な家庭料理。白米、里芋の煮物、濃すぎず薄すぎずの赤味噌の味噌汁に魚や肉豆腐、おひたし等、こんな異常事態の中では洒落たものを食べるよりもいつも食べている家庭料理の方が食も進む。

冴子の味付けの味噌汁や煮物は疲弊した心と体をほっと安心させる味だった。昼食をほとんど口にしなかった面々はそれぞれが好きな物を選んで食事をしていた。

 食後のコーヒーが出された頃合いに上野が再び口を開いた。

『学生の皆さんにお聞きしたいのですが、竹本さんは煙草は吸われましたか?』
『いいえ、アイツは煙草嫌いなんですよ。なぁ亮?』
『ああ、煙草は吸わないって言ってたな。俺らが吸ってるとあからさまに嫌な顔して』

隼人と渡辺の返答を聞いた上野は難しい顔つきで唸った。隼人が身を乗り出す。

『上野さん、竹本と煙草が関係あるんですか?』
『いや……本人が亡くなっていますし、隠しておくことでもありませんね。竹本さんは4年前に喫煙で補導されているんです』
『煙草嫌いの竹本が喫煙で補導って変じゃねぇ?』

渡辺が言う。隼人も腑に落ちない。

『それで煙草嫌いになったのかもしれないが確かに妙だな』
『もしかしたら何か別のまずい事やらかして、喫煙ってことにして揉み消したとは考えられないか? ほら、アイツの親父、国会議員だからそういうのアリそう』
『亮、無責任な発言はよせって。どう言ったって死人に口無しなんだ』
『わかってるけどさ、俺らが煙草吸ってるとあんなに嫌な顔する竹本が喫煙で補導されるか?』

渡辺の疑問に答えられる回答を誰も持ち合わせていない。
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