早河シリーズ序章【白昼夢】
8月6日(Sun)[三日目・朝食]

『松下はまだ起きて来ないのか?』

 福山編集長は朝食の席に松下がいないことを怪訝に感じた。例によって間宮は自室で朝食、あとの者は殺された竹本とまだ姿を現していない松下を除けば全員がダイニングに顔を揃えている。

『珍しいですね。松下は朝日の写真を撮るのを日課としています。寝坊するはずはないと思いますが……』

福山の発言を受けて佐藤は腕時計を見た。現在時刻は7時52分。
早い者はすでにモーニングを終えて食後のコーヒーの時間を過ごしている。

『この状況って昨日の竹本の時と同じですね』

青木の独り言に誰もが顔色を変えた。

『あんなことがあった後だ。念のため松下の様子を見に行こう』
『編集長、俺も行きます』
『私も行きましょう。何もなければそれに越したことはありません』

 福山と佐藤に続いて上野刑事もダイニングを出ていく。三人は階段を上がって二階西側の204号室の前に来た。

『おい、松下。起きてるか?』

福山がノックをしても応答がない。上野が一歩下がって踵《きびす》を返す。

『寝過ごしているだけならいいのですが。合鍵を貰ってきましょう』
『……刑事さん、待ってください。鍵が開いていますよ』

佐藤の手でドアノブが回されたことを確認した上野の表情は一段と険しくなった。

『二人とも下がって』

福山と佐藤を下がらせて上野が扉の前に進み出る。彼はハンカチでドアノブをくるんで慎重に回した。外開きの扉は抵抗なく開かれ、三人の目の前にその光景を晒す。

 上野の視線の先にはカメラを提げるためのベルトを首に巻き付けられて倒れている男の姿があった。部屋の入り口から室内を覗いた福山と佐藤は驚愕している。

『刑事さん、松下は……』
『……亡くなっています』

沈んだ声で刑事は告げた。
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