早河シリーズ序章【白昼夢】
 オペラ等の演劇で使うような不気味な仮面とこのシチュエーションも相まってこの男が得体の知れない存在に見えて鳥肌が立つ。だが不思議とこの男から視線をそらせない。
これは夢? 現実?

『綺麗な瞳だ』
「あなた誰なの?」
『私はキング』

男の口調は穏やかだ。この現代で自らをキングと名乗る男はいっそう奇妙に思う。

「キング? あなた王様なの?」
『そうだよ』
「……何の王様なの?」
『そうだね……闇の王とでも言っておこうか』

(闇の王? この人本気で言ってるの? ゲームや漫画の世界じゃないんだから)

 冷たい静寂の世界。床も、壁も、天井も、何もかもがグレーで何もかもが冷たい。
ここには色を持つものは何もない。

男の仮面は白、服は黒、美月が着ているワンピースも濁りのない白。シロクロハイイロ、ただただ無彩色の世界が広がっている。

 仮面の男と美月、二人しか世界に存在していない。
そう最初から、この世界には二人しかいなかった……?

「私をどうするつもり?」
『どうもしないよ。ただ君と話がしたいだけさ』

 キングと名乗る男は再び椅子に腰を下ろした。彼は可笑しそうに喉を鳴らして笑っている……ように見える。こちらからでは仮面に隠れた彼の表情を知ることはできない。

『君、面白い子だね。私が怖くないのかな?』

そう言われて美月は少し考えた。怖い?怖くない?

「その仮面は不気味だけど怖くはない……かも」
『ほぉ。手足を縛られてこんな場所に監禁されているのに?』
「それは……」

(確かにこの状況はマズイ。これって誘拐?)

『まぁいい。君に危害を加えはしないよ。安心しなさい』
「目的はなに?」

またキングが笑った。何がそんなに愉快なのだろう?

『ほら、まただ。君は好奇心が旺盛な子なんだね。この状況でも恐怖よりも好奇心が勝っている。面白い』

(今のは褒めてるの? バカにしてるの?)

いちいち上から目線な男を美月は睨み付けた。キングはそんな美月の様子を見て愉しんでいるようだった。
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