早河シリーズ序章【白昼夢】
『質問に答えよう。先ほども言ったように私の目的は君と話をすることだよ』
「どうして私と?」
その質問に彼はすぐには答えない。不気味な仮面の奥の双眸からじっと美月を見ている。
『君が我々と正反対の位置にいると思ったからかな』
(正反対? その言葉……最近誰かに言われた。それに“我々”って? この人には仲間がいるの?)
無意識に視線をさ迷わせて男の仲間を探して見ても、薄暗いコンクリートの部屋にはキングと美月の二人の気配しか感じない。
「私とあなたが正反対ってどういう意味?」
『そのままの意味だよ。だからこそ私は君に興味を持った。どうやら想像以上に私と君は正反対の位置にいるようだ』
回りくどい。この世界のなにもかも、回りくどい。キングの真意が読めない。
(だから正反対って何なのよ。まずはそれを説明しなさいよね! この人は何が言いたいの?)
この男を不気味だと感じても少しも恐怖心を抱かない理由が彼と会話を重ねるうちにわかってきた。声だ。
キングの柔らかな声、穏やかな口調……
(この人の声、似てる。だからなんだ。だからこの人を怖いと思えないんだ)
『君、名前は?』
「……美月」
『みつき、か。漢字ではどう書く?』
「美しい月で美月」
『美しい月……いい名前だね。私が闇の王ならば君は光の姫君と言ったところだね。光と闇はけっして相容れない。結ばれることはない。だが光がなければ闇は生まれず、闇がなければ光は輝けない』
(いきなり何? 詩を朗読してるみたいな、言ってることはなんとなくわかるけど)
『光と闇は表と裏。表がなければ裏は存在しない。そして表と裏は元は同じ。最初から表と裏に分かれていたのではない。何処《どこ》かで表と裏の二手に分かれるんだ。どちらを主体に生きていくか、表と裏、光と闇なんてものはそれだけの違いに過ぎない』
「つまりあなたは裏を主体にして生きてるの?」
『何故そう思う?』
「だってさっき自分で闇の王って言ったじゃない。闇と言えば裏でしょ?」
キングが立ち上がり再び美月に近づいた。
『なるほど。闇イコール裏か。美月の常識ではそうなるかもね。でもね、私は闇が裏だとは思わないよ。闇は私にとっては表だからね』
キングとの禅門答のやりとりに美月は辟易《へきえき》していた。
「よくわからない」
『そうだろう。だから君と私は正反対なのさ』
彼は膝を折ってしゃがむと美月の髪を優しく撫でた。1、2、3、1、2、3……キングは一定のリズムを刻んで上から下へ、美月の髪を撫でていく。
(なんだろうこの感じ……不思議な気持ちになる)
『人は自分と似ている者かあるいは自分と正反対の人間に惹かれる傾向がある。今回はさて……どちらかな?』
またわけのわからない言葉を発した刹那、キングは美月の鼻と口を白いハンカチで塞いだ。直に強烈な眠気が美月を襲う。目を開けようと思っても開けられない。
『おやすみ。眠り姫』
「どうして私と?」
その質問に彼はすぐには答えない。不気味な仮面の奥の双眸からじっと美月を見ている。
『君が我々と正反対の位置にいると思ったからかな』
(正反対? その言葉……最近誰かに言われた。それに“我々”って? この人には仲間がいるの?)
無意識に視線をさ迷わせて男の仲間を探して見ても、薄暗いコンクリートの部屋にはキングと美月の二人の気配しか感じない。
「私とあなたが正反対ってどういう意味?」
『そのままの意味だよ。だからこそ私は君に興味を持った。どうやら想像以上に私と君は正反対の位置にいるようだ』
回りくどい。この世界のなにもかも、回りくどい。キングの真意が読めない。
(だから正反対って何なのよ。まずはそれを説明しなさいよね! この人は何が言いたいの?)
この男を不気味だと感じても少しも恐怖心を抱かない理由が彼と会話を重ねるうちにわかってきた。声だ。
キングの柔らかな声、穏やかな口調……
(この人の声、似てる。だからなんだ。だからこの人を怖いと思えないんだ)
『君、名前は?』
「……美月」
『みつき、か。漢字ではどう書く?』
「美しい月で美月」
『美しい月……いい名前だね。私が闇の王ならば君は光の姫君と言ったところだね。光と闇はけっして相容れない。結ばれることはない。だが光がなければ闇は生まれず、闇がなければ光は輝けない』
(いきなり何? 詩を朗読してるみたいな、言ってることはなんとなくわかるけど)
『光と闇は表と裏。表がなければ裏は存在しない。そして表と裏は元は同じ。最初から表と裏に分かれていたのではない。何処《どこ》かで表と裏の二手に分かれるんだ。どちらを主体に生きていくか、表と裏、光と闇なんてものはそれだけの違いに過ぎない』
「つまりあなたは裏を主体にして生きてるの?」
『何故そう思う?』
「だってさっき自分で闇の王って言ったじゃない。闇と言えば裏でしょ?」
キングが立ち上がり再び美月に近づいた。
『なるほど。闇イコール裏か。美月の常識ではそうなるかもね。でもね、私は闇が裏だとは思わないよ。闇は私にとっては表だからね』
キングとの禅門答のやりとりに美月は辟易《へきえき》していた。
「よくわからない」
『そうだろう。だから君と私は正反対なのさ』
彼は膝を折ってしゃがむと美月の髪を優しく撫でた。1、2、3、1、2、3……キングは一定のリズムを刻んで上から下へ、美月の髪を撫でていく。
(なんだろうこの感じ……不思議な気持ちになる)
『人は自分と似ている者かあるいは自分と正反対の人間に惹かれる傾向がある。今回はさて……どちらかな?』
またわけのわからない言葉を発した刹那、キングは美月の鼻と口を白いハンカチで塞いだ。直に強烈な眠気が美月を襲う。目を開けようと思っても開けられない。
『おやすみ。眠り姫』