早河シリーズ序章【白昼夢】
午前11時50分[ダイニング]

「冴子さん、オーナーと美月ちゃんはどうしたんですか?」

 ダイニングを見渡した佐藤は沖田オーナーと美月の姿が見えない理由を冴子に尋ねた。通常なら二人とも冴子と共に昼食の準備をしている時間帯だ。

「それが……」

冴子の顔色はすぐれない。その場にいた福山や隼人達も心配そうに冴子を見ていた。

「美月が帰ってこないんです」
『帰ってこない? どういうことですか?』

佐藤が尋ねても冴子は首を横に振るだけ。皆が冴子の次の一言を待っていた。
それから数十秒後、漏れてくる溜息の中から彼女はか細く声を絞り出した。

「あの子はいつも午前中は海岸まで散歩に出掛けているの。今日もいつものように出掛けて……普段はお昼の支度に間に合うように戻ってくるのに今日は11時を過ぎても帰って来なかったんです。ここであんなことが起きた後ですし心配になって美月の携帯に電話をしても繋がらなくて。今、主人と刑事さんが美月を捜しに出ているんです」

 一連の出来事と美月の身を案じて心労が溜まっていた冴子はめまいを起こしてよろめいた。麻衣子とあかりが横から冴子を支える。

「おかしいですね。美月ちゃんが連絡もなしにフラフラ出歩くことはないと思う。もしも何かあって帰れないのならこっちに連絡を入れるはずです。あの子はそういうところしっかりしてるから」

あかりの言葉に冴子も頷いた。

 昼食の支度をする冴子を麻衣子とあかりが手伝って、サンドイッチやスープの軽食が食卓に並ぶ。
昼食の間、皆が美月の不在が気がかりで重苦しい空気が漂っていた。

 12時40分頃、沖田オーナーと上野刑事がペンションに戻ってきたが、海岸にもペンション付近のどこにも美月の姿はなかったと彼らは報告した。
美月の携帯電話は呼び出し音の後に留守番電話になってしまう。やはり美月の身に何かあったのかもしれない。

 疲労する沖田に代わって今度は福山編集長、佐藤、隼人、渡辺、青木、そして上野が美月の捜索にあたることになった。
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