早河シリーズ序章【白昼夢】
 時刻は夏真っ盛りの午後1時。太陽が地面を照り付けている。水の入るペットボトルやタオル、周辺地図を持参して捜索隊の六人は散り散りに美月を捜しに出掛けた。

 隼人はペンション南側を散策することにした。すぐ側は海岸だ。
暑さに顔をしかめつつ歩道を歩いていた隼人は前方に佐藤瞬の姿を見つけた。

佐藤とは昨日の一件もあり気まずさも残る。しかしこのタイミングでなければまた機会を失うだろう。

 逡巡《しゅんじゅん》の末、隼人は後ろから佐藤に声をかけた。

『木村くんか。その様子じゃ美月ちゃんはまだ……』
『ええ。まだ他の奴らからも美月ちゃんが見つかったって言う連絡はありませんね』

 隼人と佐藤は並列して歩を進める。隼人も長身の部類に入るが佐藤は隼人よりもあと少し上背があり、二つののっぽの影は同じ方向に進んでいた。

『美月ちゃんどこに行ったんだろうね』
『東京ならともかく、この狭い町であの子が立ち寄りそうな場所は限られると思います。ホントに目が離せない世話の焼ける奴』

隼人の口調に佐藤は隠されたある感情を感じ取った。
突然、隼人が立ち止まる。彼は佐藤に向けて上体を折り曲げて謝罪の言葉を口にした。

『昨日は殴ってしまって、すみません』
『ああ……いいんだよ。昨日は俺もムキになっていたんだ。だからお互い様。気にしなくていい』

佐藤は口元の絆創膏を撫でて苦笑する。その目立つ位置に貼られた絆創膏の理由を佐藤は福山編集長に問われていたが、彼は隼人との一件を福山に話さなかった。
絆創膏の真相を知る者は当事者の隼人と佐藤、美月、目撃者の麻衣子とあかりのみ。
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