早河シリーズ序章【白昼夢】
海岸線に沿って小さな公園がある。
二人は公園の入り口に立って園内を見渡した。鬱蒼と茂る樹木と丸太の遊具があるだけの公園に人の気配はない。
園内を流れる水辺で二羽の鳥が涼んでいる。佐藤と隼人は水辺の側のベンチに腰掛けて一息入れた。
『聞いてもいいですか?』
『なにかな?』
『佐藤さんは美月ちゃんのことどう思っているんですか?』
隼人の質問は直球だ。沈黙する佐藤にかまわずに隼人はペットボトルの水を飲んでから話を続ける。
『あの子、佐藤さんに惚れてますよ。バカなくらい純粋で真っ直ぐだし。俺が言えたことじゃないですけど、もし本気じゃないなら気を持たせることはしない方がいいですよ。美月ちゃんを傷付けるだけです』
『……木村くんは美月ちゃんが好きなんだね』
『別に俺は……』
隼人は佐藤から顔を背ける。その様子に佐藤は微笑し、視線を上げた。その時だ。彼の目に“ソレ”は飛び込んできた。
『どうしました?』
『いや……あれはなんだろう?』
佐藤が指差す先を隼人も見る。木々の間に何かが見えた。二人はそれに向かって歩いていく。
“ソレ”は横長の大きな木の箱だ。
『なんなんですか、これ』
隼人は木箱を見下ろし、佐藤は身を屈めた。
木箱からある物を連想した佐藤は頭に浮かび上がった映像に戦慄する。
それは死者を弔《とむら》うためのもの……そう、棺……。
佐藤の手で箱の蓋がゆっくり開かれる。開かれた木箱を見下ろす佐藤と隼人はしばらく言葉を発することが出来ずにいた。
思考が停止してしまったかのように二人は木箱の中にあるものを見つめる。
木箱いっぱいに敷き詰められた真っ赤な薔薇《ばら》の海
鮮血に似た、毒々しい赤い薔薇
赤、あか、アカ、その中にひとつだけある、シロ
誰かが赤い海に埋もれている。
赤い薔薇の海に仰向けで横たわっているのは、美月。
真紅の薔薇の海に白い肌と白いワンピースが映えて、息を呑むほどに美しく心を奪われるほどに無垢な、彼女はまるで童話の世界の眠り姫のようだった。
第二章 END
→第三章 真夏の夜の夢 に続く
二人は公園の入り口に立って園内を見渡した。鬱蒼と茂る樹木と丸太の遊具があるだけの公園に人の気配はない。
園内を流れる水辺で二羽の鳥が涼んでいる。佐藤と隼人は水辺の側のベンチに腰掛けて一息入れた。
『聞いてもいいですか?』
『なにかな?』
『佐藤さんは美月ちゃんのことどう思っているんですか?』
隼人の質問は直球だ。沈黙する佐藤にかまわずに隼人はペットボトルの水を飲んでから話を続ける。
『あの子、佐藤さんに惚れてますよ。バカなくらい純粋で真っ直ぐだし。俺が言えたことじゃないですけど、もし本気じゃないなら気を持たせることはしない方がいいですよ。美月ちゃんを傷付けるだけです』
『……木村くんは美月ちゃんが好きなんだね』
『別に俺は……』
隼人は佐藤から顔を背ける。その様子に佐藤は微笑し、視線を上げた。その時だ。彼の目に“ソレ”は飛び込んできた。
『どうしました?』
『いや……あれはなんだろう?』
佐藤が指差す先を隼人も見る。木々の間に何かが見えた。二人はそれに向かって歩いていく。
“ソレ”は横長の大きな木の箱だ。
『なんなんですか、これ』
隼人は木箱を見下ろし、佐藤は身を屈めた。
木箱からある物を連想した佐藤は頭に浮かび上がった映像に戦慄する。
それは死者を弔《とむら》うためのもの……そう、棺……。
佐藤の手で箱の蓋がゆっくり開かれる。開かれた木箱を見下ろす佐藤と隼人はしばらく言葉を発することが出来ずにいた。
思考が停止してしまったかのように二人は木箱の中にあるものを見つめる。
木箱いっぱいに敷き詰められた真っ赤な薔薇《ばら》の海
鮮血に似た、毒々しい赤い薔薇
赤、あか、アカ、その中にひとつだけある、シロ
誰かが赤い海に埋もれている。
赤い薔薇の海に仰向けで横たわっているのは、美月。
真紅の薔薇の海に白い肌と白いワンピースが映えて、息を呑むほどに美しく心を奪われるほどに無垢な、彼女はまるで童話の世界の眠り姫のようだった。
第二章 END
→第三章 真夏の夜の夢 に続く