早河シリーズ序章【白昼夢】
 竹本の態度が気にいらない里奈は頬を膨らませて隼人の肩にもたれた。

「ねぇ隼人。竹本の奴、次の会長は自分だって言いふらしてるらしいよ」
『ああ。知ってる』

どれだけ声を潜めて会話をしてもバスの車内ではたかが知れる。隼人と里奈のやりとりに竹本は聞き耳を立てているだろう。

「どうするの?」
『どうするって何が』
「竹本は隼人に取って代わろうとしてるのよ。学祭のミスターもあいつは自分がなる気でいる。お金の力で票を買うつもりなんだよ。学祭の実行委員会の何人かは竹本に買収されてるって噂もある。このまま竹本に好き勝手させていいの?」

金に物を言わせる竹本のやり方を非難したくなる里奈の気持ちもわかるが正直、隼人はどうでもよかった。

『別にいいんじゃねぇの? どうせ俺らはこの合宿が終わればサークルは引退だ。三年の誰かが会長になるのは当然のこと。元々ミスターには興味ねぇし……いつの間にか出場することになってたけど、ミスターコン今年は辞退してぇな。過去の優勝者が毎年出るのもおかしいだろ?』
「そんなことない! 隼人は特例で出場が認められてるんだよ? 啓徳大学史上初のミスター啓徳四連覇がかかってるの。隼人は絶対にぜぇーったいにミスターコン出ないとダメ! 学祭の目玉なんだから!」
『四連覇ねぇ……』

おそらく外部からかなりの集客があるのだろう。毎年ミスターコンテストに出場することで客寄せに使われている気分だ。

 里奈との会話が面倒になってきた隼人は両耳にイヤホンをはめて外界を遮断した。
麻衣子はそんな隼人と里奈の様子を一瞥して目をそらす。
このミステリー研究会幹部メンバーにはただの仲良しグループではない雰囲気が漂っていた。
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