早河シリーズ序章【白昼夢】
午後4時[西・205号室 上野の部屋]

 上野は赤い薔薇が詰められたビニール袋を目の前にかざした。この花は美月が寝かされたいた木箱に敷き詰められていたものの一部。
木箱はひとまず近くの交番に運び込んで保管してある。

 最初に木箱を見た時はこの真っ赤な薔薇が美月の身体から流れ出た血液に見えてしまい、悪戯にしては悪趣味な趣向だ。

 誰が何の目的でこんなことを?
一連の殺人事件と美月の連れ去りは関係があるのか?

なぜ美月を?
彼女はここのペンションオーナーの姪と言うだけで不運にも死体や証拠品の第一発見者となってしまったが、高校生の美月は事件とはほぼ無関係のはず。
美月はまだ自室で眠っている。彼女が目覚めたら事の経緯を詳しく聞かなければ。

 テーブルに置いた携帯電話が鳴る。今度は早河刑事ではなく香道刑事だ。

{早河が言っていた4年前の竹本の補導についてですが、竹本を補導した警官がその直後に退職しています}
『退職の理由は?』
{よくある一身上の都合とやらで。同時期に当時その警官の上司だった男は警視庁に栄転しています}
『竹本の補導直後の退職と出世……妙だな』

4年前の竹本晴也の喫煙補導が今回の事件と関係があるのかは今はまだ不明だ。しかしこの4年前の補導には何か“裏”がある。

{匂いますよね。退職した元警官の方は早河が、俺は警視庁総務部にいる元上司をあたってみます}
『お前も早河も捜査があるのに手を煩《わずら》わせてしまってすまない』
{何言ってるんですか。俺達は上野班の人間ですよ。警部がそこを動けないのなら俺達が警部の手となり足となり動くことは当然です。任せてください}

いい部下を持ったとしみじみ思い、部下達に感謝した。
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