早河シリーズ序章【白昼夢】
 佐藤と隼人は渡辺を交えてミステリー談義に花を咲かせながらも手は忙しなく白と黒の駒を動かしている。勝負はどうやら佐藤の勝利のようだ。

『佐藤さん強いなぁ。降参です』

隼人は悔しげにソファーの背にもたれて頭の後ろで両手を組んだ。渡辺は隼人の席の後ろに回り込んで負けた幼なじみの肩を叩いている。

『隼人、大学のチェスサークルも掛け持ちしていたことあるんですよ。サークルではけっこう強い方だったのにその隼人を負かすって佐藤さんやりますね!』

渡辺は幼なじみの敗北に歓喜していた。美月とあかりもあまりにも隼人が落胆している様がおかしくてクスクス笑った。
隼人は舌打ちして美月達を睨んだ。

『亮。仮にも俺の幼なじみならそこは一緒に悔しがるとこだろ。あとそこの女二人組。俺が負けたのがそんなに嬉しいか』
「だっていつも余裕な顔してる木村さんが佐藤さんに負けて悔しがってるんだもん。面白くて」
『チッ。美月ちゃんだんだん本性出して来やがったな。最初は可愛かったのに。ねぇ佐藤さん?』
『無邪気で可愛いじゃないか』

佐藤が美月に笑顔を向ける。佐藤に可愛いと言われて照れた美月は頬を赤くしてはにかんだ。

『あーあ。にやけちゃって。わかりやすいんだよ』

 チェス盤の片付けをした隼人は粗暴な手つきで美月の頭をくしゃくしゃ撫でた。彼らはそれからすぐラウンジを出ていき、佐藤も自室に戻った。

ラウンジには美月とあかりの二人が残る。

「私、思うんだけど木村先輩って美月ちゃんのこと好きなのかも」
「まさかぁ。高校生は恋愛対象外って言ってたよ。ないない」

美月は即座に否定するがあかりは合点がいかないようで、アイスレモンティーの中に入る氷をストローでかき混ぜた。

「でも木村先輩が女の子にあんな態度とるの珍しいんだよ。幼なじみの麻衣子先輩は別としても、彼女の里奈先輩にもあんな態度とらないし、誰に対しても基本的にクールなの。だけど美月ちゃんにはわざと突っかかって意地悪してるみたいに見える」
「それは……からかって私の反応見て面白がってるだけで、好きとかじゃないと思うよ。好きな子に意地悪するって小学生じゃないんだから」

美月は苦笑してクッションを抱き抱えた。言葉とは裏腹に少し動揺している。

(あの木村さんが私を好き? いやいや、ないない。私は恋愛対象外なんだから絶対にない!)

「もし木村先輩が美月ちゃんを好きならこれから大変ね」
「大変? どうして?」
「なんとなくね。これからどうなるんだろうって思って」

きょとんとした顔をする美月に向けてあかりは意味深に微笑んだ。
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