早河シリーズ序章【白昼夢】
 暗闇にさざめく波。窓際に立って夜の海を眺めていたその者の携帯電話が音を立てた。
着信を続ける携帯を持ち上げ、液晶画面を見る。画面には非通知の文字が並んでいた。

 この計画を開始して以降、“あの人”は自分の携帯番号を非通知にして連絡してくるようになった。用心深いあの人らしい。

『……はい』
{やぁ、last crow}

電話相手はその者をラストクロウと呼ぶ。その者のもうひとつの名前だ。

『king。“あれ”は貴方が行ったのですか?』
{そうだよ。なかなか良い演出だっただろう? タイトルはSleeping Beauty……“眠り姫”だ}

 ラストクロウと呼ばれ、キングと呼ぶ。それがここでの決まり。

『何故あのようなことを?』
{何か不満かな?}
『いえ……。ただ計画にはなかったことなので少々戸惑いました』

 籐の椅子に腰かけてその者は眉間を揉む。
この数日間の肉体的疲労と精神的疲労の蓄積。眠気で無意識に降りてくる瞼を必死で上げた。

{それは“あれ”だけではないだろう。イレギュラーな事態なら他にも起きている}
『さすがに刑事の来訪には参りましたね』
{おまけに土砂崩れで足止め。まったく君も運がないなぁ}

キングは笑っていた。

      *

 ──ラストクロウとの通話の直後にキングはある人物に電話をかけた。

{はい}
『canary。君の出番だよ』


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