早河シリーズ序章【白昼夢】
 何故、特定の人間だけが集まる場所で殺したのか、その答えを掴む感覚。

すべては必然による偶然?
偶然による必然?

『役者が揃ったから……』
『役者が揃った?』

 渡辺は隼人の言葉の意味がわからず彼の言葉をオウム返しに呟いた。隼人は顎に手を添えて視線を落とし、思考のみを働かせる。

さっきからずっと引っ掛かっている
何かがおかしい。何かが気持ち悪い
どうしてなんだ?

 ある人物の顔が浮かぶ。あの場合のあの人の行動はあまりにも不可解だ。
役者が揃った、それは突発的に口から出た言葉。特に確証も根拠もないただの勘。

 殺す理由を持つ者と殺される理由を持つ者が揃った。だからこのタイミングだった?

 推理小説の中でなら何人殺されようと慣れているが現実は違う。
三人の人間が命を強制的に奪われた。それが殺人だ。
人が人を殺す理由など知りたくもない、理解したくもない。

 複雑に考えすぎているのかもしれない。本当はもっと単純なのかもしれない。
殺すと言う手段を導き出した思考……
殺さずして処理できる方法をどうして選ばなかった?
犯罪者と呼ばれてまで、自分の人生と引き換えにしてまで人を殺して何が手に入る?

あの人のあの行動の意味がわからない。
どうして“あの人”は……
わからない。わかりたくもない。

 理解できないことが正常? もし理解できてしまえばそれはもう異常なのか?
そもそも犯罪者とは異常なのか?
では自分は正常?

泣きたいから泣く
笑いたいから笑う
殺したいから……殺す?

 この世は食物連鎖だ。しかし殺しをタブーと定義付けているのは人間だけだろう。
野生の獣は飢えを満たすために狩りをする。
人間だって生きていくために家畜を犠牲にしている。象が生まれたばかりの自分の子供を踏みつけて死なせたニュースを思い出す。

 人が人を殺せばそれはタブーと認識される。人はルールを作るから。ルールがあるからこそのタブー。

 頭痛の気配に隼人はこめかみを押さえた。渡辺の視線を感じたがあえて彼に視線を向けない。今は表情を読み取られたくない。

『隼人? 大丈夫か?』
『ああ……』

 心ここにあらずな返事をして隼人は渡辺に背を向け、バルコニーに出た。
雨の匂いのする空気を吸い込み彼は目を閉じた。顔に冷たい雨粒が当たって気持ちがいい。

雨は止まない。
もっと降れ。もっと降って洗い流してくれ。
隼人は心の中で呟いた。
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