早河シリーズ序章【白昼夢】
突如、隼人の足元にふわふわとした暖かいものが触れた。足元を見るとこのペンションの飼い猫のリンが艶やかな白い毛を纏う体躯を隼人の足に擦り付けていた。
『なんだよ。慰めてくれるのか?』
隼人はリンを抱き上げて膝に乗せる。ごろごろと撫でてやると白猫は甘えた声で鳴いた。まったく抵抗もなく、リンは隼人にされるがまま撫で回されて、そのたびに喉を鳴らした。
広間に入ってきた美月が隼人の膝の上でくつろぐリンを見て唖然とする。
「えっ? リン……なにしてるの?」
いつもなら美月を見つけると甘えてすり寄ってくるリンが今は美月よりも隼人を選んでいるのか、美月に見向きもしない。
『リンは俺とイチャイチャ真っ最中』
「ウソぉ! この子、家族以外にはなつかないのに。今までお客さんに体も触らせなかったリンが……。こんなこと初めて」
『猫にはわかるんだよ。顔が良い奴のことは』
「顔は、良いですけどね! って言うかそれ自分で言います? ナルシスト!」
『この顔に最初はポーッとなってたくせに素直じゃねぇなぁ。リンの方がよっぽど素直な女だ』
隼人はリンを美月に手渡す。隼人との触れ合いを中断させられたリンは不満な顔でおとなしく美月に抱かれていた。
「別にポーッっとなってません! リン、行くよ。この人の側にいると何されるかわかんないんだから」
『夜中に部屋に侵入して添い寝してやろうか?』
私はそれでもいいのよと言いたげな涼しい眼差しをリンは隼人に送る。雌猫のリンは顔の綺麗な男に弱いらしい。
「その時は蹴り飛ばします! ……あ、皆さん昼食の準備ができたのでダイニングにどうぞ」
隼人にだけは舌を出してあっかんべーをして見せ、他の者にはかしこまってそう告げた美月はリンを連れて広間を後にした。
『好きな子からかうって小学生レベルだな』
『反応が面白いからな』
渡辺と言葉を交えている時にこちらを見ていた佐藤と目が合った。佐藤は隼人から視線をそらして福山と連れ立ってダイニングに行ってしまう。
隼人はしばらく佐藤の後ろ姿を目で追っていたがやがて窓の外に視線を移した。
まだ頭痛はするものの、けだるげだった気分は爽快になっていた。その理由を彼はすぐに理解する。
(好きな女の顔見るだけで気分良くなるって俺ってこんなに単純だったか?)
単純な自分の心に笑いたくなった。
外はまだ雨が降り続いているが雲の切れ間から太陽の光が差して空の一部分が明るい。
雨と太陽
相反するものを一度に感じたそれは幻想的な光景だった。
この光景のように夢と現実を同時に感じる瞬間があるのだろうか?
体は現実世界にあり、心は夢の世界に。
“白昼夢” その言葉が隼人の思考を占拠した。
『なんだよ。慰めてくれるのか?』
隼人はリンを抱き上げて膝に乗せる。ごろごろと撫でてやると白猫は甘えた声で鳴いた。まったく抵抗もなく、リンは隼人にされるがまま撫で回されて、そのたびに喉を鳴らした。
広間に入ってきた美月が隼人の膝の上でくつろぐリンを見て唖然とする。
「えっ? リン……なにしてるの?」
いつもなら美月を見つけると甘えてすり寄ってくるリンが今は美月よりも隼人を選んでいるのか、美月に見向きもしない。
『リンは俺とイチャイチャ真っ最中』
「ウソぉ! この子、家族以外にはなつかないのに。今までお客さんに体も触らせなかったリンが……。こんなこと初めて」
『猫にはわかるんだよ。顔が良い奴のことは』
「顔は、良いですけどね! って言うかそれ自分で言います? ナルシスト!」
『この顔に最初はポーッとなってたくせに素直じゃねぇなぁ。リンの方がよっぽど素直な女だ』
隼人はリンを美月に手渡す。隼人との触れ合いを中断させられたリンは不満な顔でおとなしく美月に抱かれていた。
「別にポーッっとなってません! リン、行くよ。この人の側にいると何されるかわかんないんだから」
『夜中に部屋に侵入して添い寝してやろうか?』
私はそれでもいいのよと言いたげな涼しい眼差しをリンは隼人に送る。雌猫のリンは顔の綺麗な男に弱いらしい。
「その時は蹴り飛ばします! ……あ、皆さん昼食の準備ができたのでダイニングにどうぞ」
隼人にだけは舌を出してあっかんべーをして見せ、他の者にはかしこまってそう告げた美月はリンを連れて広間を後にした。
『好きな子からかうって小学生レベルだな』
『反応が面白いからな』
渡辺と言葉を交えている時にこちらを見ていた佐藤と目が合った。佐藤は隼人から視線をそらして福山と連れ立ってダイニングに行ってしまう。
隼人はしばらく佐藤の後ろ姿を目で追っていたがやがて窓の外に視線を移した。
まだ頭痛はするものの、けだるげだった気分は爽快になっていた。その理由を彼はすぐに理解する。
(好きな女の顔見るだけで気分良くなるって俺ってこんなに単純だったか?)
単純な自分の心に笑いたくなった。
外はまだ雨が降り続いているが雲の切れ間から太陽の光が差して空の一部分が明るい。
雨と太陽
相反するものを一度に感じたそれは幻想的な光景だった。
この光景のように夢と現実を同時に感じる瞬間があるのだろうか?
体は現実世界にあり、心は夢の世界に。
“白昼夢” その言葉が隼人の思考を占拠した。