早河シリーズ序章【白昼夢】
 昼食後、上野刑事が口を開いた。

『皆さんにお話があります。4年前の竹本さんの補導の件で新たな事実が判明しました。食事の後に気分の悪くなる内容となりますがお許しください』

 ダイニングの席についている者達が一様に上野の言葉を待つ。

『4年前、竹本さんが高校生の時の出来事です。竹本さんは喫煙で補導されたのではなく、女性を強姦して逮捕されていました。しかしその事実は議員である父親の指示で隠蔽され、事件が公になることはありませんでした』

 ダイニングに集まる顔ぶれの表情の変化を上野は注意深く観察する。驚く者、眉をひそめる者、感情の読み取れない無表情な者……

『渡辺先輩が言った通りじゃないですか』

青木が渡辺に耳打ちし、両者は小声で会話を交わす。上野が話を続けた。

『被害に遭われた女性の名前は片桐彩乃さん。この片桐さんですが、事件から2週間後に自殺しています。私は竹本さんの殺害はこの4年前の強姦事件と関係があるのではと考えています』

 隼人は考え事をするように腕を組んで目を閉じている。渡辺はぼんやりと頬杖をつき、渡辺と話をしていた青木は今は黙ってコーヒーを飲んでいる。
 福山編集長は挙動不審に周りの顔色を窺い、佐藤は青木と同じくコーヒーに口をつける。
 麻衣子は青ざめた顔でうつむき、あかりはデザートのプリンを黙々と食べていた。
 キッチンで上野の話を聞いていたオーナー夫妻と美月も困惑の面持ちでダイニングの様子を窺っている。

 4年前に竹本晴也が起こした陰惨な事件の衝撃は大きかった。
一同の間に重苦しい空気が漂っていた。
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