早河シリーズ序章【白昼夢】
 裏口の扉が開いて美月が現れた。手にゴミ袋を提げた美月は赤い傘を差してこちらに歩いてくる。

「何してるんですか?」
『現場検証ってヤツ』
「現場検証? なんだか刑事さんみたいなことしてますね」

ポリバケツの蓋を開けてゴミ袋を中に入れた美月は隼人の隣に並んだ。

「何かわかりました?」
『さっぱりわからねぇよ。やっぱり俺は素人探偵には向いてねぇな』
「そうかなぁ。私は木村さんは探偵っぽいと思いますよ。頭良くて冷静で、ホームズの実写版が似合いそう」

 昼には猫のリンを挟んで軽口を叩き合っていたのに、今は無警戒に隼人の隣にいる美月は視線をゴミ捨て場に向けた。

「犯人はレインコートや長靴を入れた袋をどうしてここに捨てたんだろうってずっと気になっているんです。すぐそこが海なんだから海に証拠品を捨てちゃう方がまだ見つからないでしょう?」

 美月の疑問は隼人が抱いた疑問と全く同じだった。その疑問については隼人はひとつの見解を導き出している。彼もゴミ捨て場に目を向けた。

『見つかってもかまわないと思っていたのかもしれない。それとも見つけて欲しかったか』
「見つけて欲しかった……そうなのかもしれませんね」

 雨脚が酷くなってきた。傘に当たる雨の音が先ほどよりも大きい。
隼人は傘の隙間から見える美月の横顔を見つめる。彼女は今、何を思う?

「明日で木村さんとはお別れなんですね」

急に溜息を漏らした美月に隼人は笑みが溢れた。表情がコロコロ変わって忙しい女だ。

『意外だな。俺との別れを寂しがってくれるとはね』
「まぁ、少しは……。だってせっかく仲良く? なれたのに」
『仲良く、のとこが疑問符だったな』

美月が照れた顔を傘で隠す。隼人はクロップドパンツのポケットに入る自身の携帯電話に触れた。

『……携帯の連絡先交換しておけば東京戻ってもまた会える』
「これでお別れじゃない……?」
『ああ。お互いに会いたいと思っていればまた会える。俺だけじゃなく麻衣子や亮とも……また皆で会える。だからそんな寂しそうな顔するな』
「……はい」

美月は隼人を見上げて、微笑した。
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