早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ

10.事件現場

7月25日(Thu)

 ジリジリと暑い太陽が照らすコンクリートの上に男が横たわっている。警視庁捜査一課の横田警部は無言で横たわる男の側に屈み込んだ。

『また先回りされたか……』
『俺達が追っていた売人に間違いないですね』

香道秋彦も膝を屈め、地面に男と手に持つ写真を交互に見る。写真にはこの男の生前の姿が写されているが、香道の目の前に今あるのは苦悶に歪んだ死相だ。

『手口は前2件と同様、心臓をナイフでひと突き、間違いなく同一犯だ。売人が俺達に捕まる前に口封じで消されてる。これは密売グループのバックにはとんでもねぇ奴らがついているかもな』

 香道達が追っている薬物密売の売人が殺されるのはこれで三人目。
前回殺された売人が新宿のクラブ〈エスケープ〉に出入りしていた今岡にクスリを売っていた永井だ。

『調べでは今回のクスリ密売と売人連続殺人に関しては組関係で怪しい動きはないようですね。しかもヤクザや中華街辺りのマフィア連中が妙に大人しいとか……』
『自分達のシマでこれだけ派手にやらかされてるならヤクザの暴動のひとつやふたつ起きそうなものが、今回は何故か奴らも黙認している節がある。なんだろうな、ヤクザも中国マフィアも手を出すのを躊躇する組織となると……そんな危ねぇ組織がこの日本にあるのか。厄介なヤマだ』

 ハンカチで額の汗を拭う横田警部はこんな暑い場所にはもう居られないと言って先にパトカーに引き返した。香道はまだその場に残って、真夏の青空を仰ぎ見る。

(また売人が殺されたこと、リュウに知らせてやらねぇと)

 売人殺しは間違いなく組織ぐるみの犯行だ。横田警部の言うように、ヤクザや中国マフィアの連中はこの事件に関わることを避けている様子だった。裏の世界の人間でさえも恐れる組織がこの国に存在するのかもしれない。

(今日も家に帰れそうもない。あー。なぎさに会いたい。なぎさ不足で兄ちゃんもうダメだ)

龍牙に妹溺愛のシスコンだと散々いじられても香道は気にしない。可愛いものは可愛いのだから仕方ない。
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