早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
 同僚から捜査会議の時間決定の連絡が入り、ひとまず警視庁に戻らなければならない。灼熱のアスファルトを踏みしめて香道は死体発見現場に背を向けた。

(あれは……)

 現場を関係者以外立ち入り禁止にするための規制線の黄色いテープの内側に男が立っている。内側に入れるのは警察関係者のみ。
香道は“彼”の名を呼んだ。

『早河くんだったね。君も来ていたのか』
『現場がうちの管轄なので一応』

新宿西警察署刑事課所属の早河仁は香道に軽く頭を下げる。早河は香道の後方の事件現場を一瞥した。

『香道さんが現場にいると言うことはただの殺しではなく……?』
『ああ。今回のガイシャも俺達が追っていたクスリの売人だった。死体はまだそのままだ』

 香道は振り返り、ブルーシートで覆われた現場を顎で指す。早河はそのブルーシートの壁を無表情に見つめていた。

傍観なのか、静観なのか。瞳からは早河の感情は読み取れない。

 蒼汰の事情聴取の時、香道の他には早河だけが蒼汰の無実を信じて上司に食って掛かっていた。
あの時は熱い刑事もいるものだと感心していたが、今の早河は妙に冷めた目をしている。ポーカーフェイスな早河刑事が死体現場を前にして何を思っているのか香道にはわからない。

『こちらでも死体を見させてもらってもかまいませんか?』
『もちろん。ここは新宿西署の管轄だしな。上司に報告挙げないとだろ? 俺達はもう見たから』
『それじゃ……失礼します』

香道に会釈して早河は数人の刑事達とブルーシートの向こう側に消えた。

(見た目は冷めてて何考えてるのかイマイチわからねぇけど……刑事としての勘の良さは一流かもしれない)

 早河仁……この名前を覚えておこう。いつかまた会う日のために。
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