早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
店の手前で立ち止まり、緩めたネクタイを締め直して弁護士バッチをジャケットにつける。ここまで来る間には不要だった“弁護士”の肩書きがここから先は重要になる。
ホストクラブの扉を開けた途端に視界に入る煌びやかな照明で目がチカチカした。出迎えのホストが怪訝な顔で龍牙に会釈する。
『オーナーに氷室龍牙が来たと伝えてくれ。アポはとってある』
出迎えのホストはまだ新米らしく、側にいた先輩ホストの意見を仰ぎ、先輩ホストが少々お待ちくださいと言って奥に下がった。数分で約束の人物が姿を現す。
『氷室か。しばらく見ない間にずいぶん立派な面構えになったな』
『尾崎さん、ご無沙汰しています』
龍牙は形ばかりの挨拶をした。
尾崎はここのホストクラブのオーナー。年齢は龍牙の二つ上。役職は真壁組若頭補佐だ。
黒龍時代に黒龍と敵対していた暴走族グループのリーダーが尾崎だった。抗争の末、紆余曲折あり龍牙と尾崎は和解をしたがお互い現役引退後は弁護士とヤクザ、真逆の人生を歩んでいる。
尾崎が所属する神和会真壁組は歌舞伎町一帯を取り仕切っている。新宿で多発するクスリ密売について知らないわけはない。
龍牙は店の最奥のVIP専用の個室に招き入れられた。アポを入れた際に大方の事情は話してある。
悠長に昔話に興じている暇はないと判断した尾崎は、すぐに口火を切った。
『氷室。この件から手を引け』
『尾崎さんがそう仰るとは一連の売人殺しの裏には相当デカイ組織が絡んでいるんですね?』
龍牙の質問には答えずに尾崎は宝石のついたライターで煙草に火をつけた。
『これ以上、売人殺しに首突っ込むな。下手すれば消されるぞ』
『売人殺しはただのオプションです。俺は可愛い後輩をハメた女と、その裏にいる人間を突き止めたいだけですよ。尾崎さんは相澤直輝……ご存知ですか?』
尾崎の右眉がかすかに動く。彼はまずそうに煙草をくわえて黙り込んだ。
さらに龍牙の追及が続く。
『俺の仕入れた相澤のネタは奴が相澤グループの跡取り息子で自称建築デザイナーって経歴だけ。でも相澤にはそれだけじゃない、別の顔がある。違いますか?』
ゆっくりと紫煙を吐いた尾崎はこめかみを押さえて溜息をついた。
『俺が持ってるネタは確かな情報じゃない。ただの噂だ。ここだけのオフレコでいいなら話してやってもいい』
『かまいません。ネタが確かかどうかはこちらで判断します』
ホストクラブの扉を開けた途端に視界に入る煌びやかな照明で目がチカチカした。出迎えのホストが怪訝な顔で龍牙に会釈する。
『オーナーに氷室龍牙が来たと伝えてくれ。アポはとってある』
出迎えのホストはまだ新米らしく、側にいた先輩ホストの意見を仰ぎ、先輩ホストが少々お待ちくださいと言って奥に下がった。数分で約束の人物が姿を現す。
『氷室か。しばらく見ない間にずいぶん立派な面構えになったな』
『尾崎さん、ご無沙汰しています』
龍牙は形ばかりの挨拶をした。
尾崎はここのホストクラブのオーナー。年齢は龍牙の二つ上。役職は真壁組若頭補佐だ。
黒龍時代に黒龍と敵対していた暴走族グループのリーダーが尾崎だった。抗争の末、紆余曲折あり龍牙と尾崎は和解をしたがお互い現役引退後は弁護士とヤクザ、真逆の人生を歩んでいる。
尾崎が所属する神和会真壁組は歌舞伎町一帯を取り仕切っている。新宿で多発するクスリ密売について知らないわけはない。
龍牙は店の最奥のVIP専用の個室に招き入れられた。アポを入れた際に大方の事情は話してある。
悠長に昔話に興じている暇はないと判断した尾崎は、すぐに口火を切った。
『氷室。この件から手を引け』
『尾崎さんがそう仰るとは一連の売人殺しの裏には相当デカイ組織が絡んでいるんですね?』
龍牙の質問には答えずに尾崎は宝石のついたライターで煙草に火をつけた。
『これ以上、売人殺しに首突っ込むな。下手すれば消されるぞ』
『売人殺しはただのオプションです。俺は可愛い後輩をハメた女と、その裏にいる人間を突き止めたいだけですよ。尾崎さんは相澤直輝……ご存知ですか?』
尾崎の右眉がかすかに動く。彼はまずそうに煙草をくわえて黙り込んだ。
さらに龍牙の追及が続く。
『俺の仕入れた相澤のネタは奴が相澤グループの跡取り息子で自称建築デザイナーって経歴だけ。でも相澤にはそれだけじゃない、別の顔がある。違いますか?』
ゆっくりと紫煙を吐いた尾崎はこめかみを押さえて溜息をついた。
『俺が持ってるネタは確かな情報じゃない。ただの噂だ。ここだけのオフレコでいいなら話してやってもいい』
『かまいません。ネタが確かかどうかはこちらで判断します』