早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
13.雷雨(side 亮・陽平)
体育館にボールが弾む音とバッシュが床をこするキュッキュッとした音、この音が渡辺亮は好きだった。9月の大会を最後に亮はバスケ部を引退する。
大会で有終の美を飾るためにも彼は夏休みに入っても練習に明け暮れていた。
練習後にシャワーを浴び、更衣室を出ると外は大雨。更衣室の前の階段で同学年で同じバスケ部の陽平が立ち往生していた。
『おー、亮。雨やべーぞ』
『最悪。傘持ってきてねぇし。駅まで走るか……』
『駅まで乗っけてやるよ。雨の中走るよりチャリの方がまだマシだろ』
『ラッキー。褒美に陽平くんに飴を進呈しよう』
亮はポケットに入っていたコーラ味の飴を陽平に投げる。陽平は苦笑して飴を受け取り、コーラ味の飴を口に入れた。
カバンを傘代わりにして学校の自転車置き場まで走る。陽平の自転車の後ろに跨がり、自転車は高円寺駅を目指して全速力で雨の道を進んだ。
遊園地のアトラクションにある、水面に着水して水しぶきを身体に浴びるウォーター系の絶叫マシーンに乗っている気分だった。
『サンキュー。助かった』
高円寺駅南口のロータリーで陽平の自転車を降りる。二人ともせっかく部活後でシャワーを浴びたのに髪や服が湿っていた。
『また月曜にな。風邪引くなよー』
『お前もなー』
陽平と別れて南口へ急ぐ亮の前にスーツを着た二人の男が現れた。
『渡辺亮さんですね?』
『……俺に何か用?』
『あなたに大切なお話があります。一緒に来ていただけますね?』
*
亮を送り届けた陽平は駅の近くのコンビニでビニール傘を買った。傘差し運転が違反なのは重々承知だ。この雨の中では警察にも多目に見てもらいたい。
ロータリーを旋回して帰路の方向に自転車を向けた陽平は亮の姿を見つけた。亮が二人の男と連れ立って雨に濡れたロータリーを歩いていく。
(あいつ電車で帰るんじゃないのか?)
声をかけようかと思ったが出来なかった。二人の男に囲まれた亮は黒い車に乗ってしまい、車は陽平の目の前を通過した。
(亮? 何があったんだ?)
事態が飲み込めないがただ事ではない。こんな時は隼人だ。亮の幼なじみの隼人なら何か知ってるかも。
自転車に跨がり、首もとで傘のシャフトを固定した陽平は携帯電話を隼人の番号に繋げた。
{お留守番サービスに接続……}
『陽平だけど……よくわからねぇけど亮が二人組の男に連れて行かれた……ように見えた。ちょっとヤバい感じ』
隼人の携帯電話は本人には繋がらなかった。留守電のメッセージを入れて通話を切った陽平はロータリーを見渡した。
亮を乗せた車はどこに向かったのだろう?
雨がアスファルトに強く打ち付け、黒い空の彼方に稲光が見えた。
大会で有終の美を飾るためにも彼は夏休みに入っても練習に明け暮れていた。
練習後にシャワーを浴び、更衣室を出ると外は大雨。更衣室の前の階段で同学年で同じバスケ部の陽平が立ち往生していた。
『おー、亮。雨やべーぞ』
『最悪。傘持ってきてねぇし。駅まで走るか……』
『駅まで乗っけてやるよ。雨の中走るよりチャリの方がまだマシだろ』
『ラッキー。褒美に陽平くんに飴を進呈しよう』
亮はポケットに入っていたコーラ味の飴を陽平に投げる。陽平は苦笑して飴を受け取り、コーラ味の飴を口に入れた。
カバンを傘代わりにして学校の自転車置き場まで走る。陽平の自転車の後ろに跨がり、自転車は高円寺駅を目指して全速力で雨の道を進んだ。
遊園地のアトラクションにある、水面に着水して水しぶきを身体に浴びるウォーター系の絶叫マシーンに乗っている気分だった。
『サンキュー。助かった』
高円寺駅南口のロータリーで陽平の自転車を降りる。二人ともせっかく部活後でシャワーを浴びたのに髪や服が湿っていた。
『また月曜にな。風邪引くなよー』
『お前もなー』
陽平と別れて南口へ急ぐ亮の前にスーツを着た二人の男が現れた。
『渡辺亮さんですね?』
『……俺に何か用?』
『あなたに大切なお話があります。一緒に来ていただけますね?』
*
亮を送り届けた陽平は駅の近くのコンビニでビニール傘を買った。傘差し運転が違反なのは重々承知だ。この雨の中では警察にも多目に見てもらいたい。
ロータリーを旋回して帰路の方向に自転車を向けた陽平は亮の姿を見つけた。亮が二人の男と連れ立って雨に濡れたロータリーを歩いていく。
(あいつ電車で帰るんじゃないのか?)
声をかけようかと思ったが出来なかった。二人の男に囲まれた亮は黒い車に乗ってしまい、車は陽平の目の前を通過した。
(亮? 何があったんだ?)
事態が飲み込めないがただ事ではない。こんな時は隼人だ。亮の幼なじみの隼人なら何か知ってるかも。
自転車に跨がり、首もとで傘のシャフトを固定した陽平は携帯電話を隼人の番号に繋げた。
{お留守番サービスに接続……}
『陽平だけど……よくわからねぇけど亮が二人組の男に連れて行かれた……ように見えた。ちょっとヤバい感じ』
隼人の携帯電話は本人には繋がらなかった。留守電のメッセージを入れて通話を切った陽平はロータリーを見渡した。
亮を乗せた車はどこに向かったのだろう?
雨がアスファルトに強く打ち付け、黒い空の彼方に稲光が見えた。