早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
 足音が近付き、冷や汗が悠真の背中を流れた。しかし足音と共に聞こえてきたのは悠真の想定外の拍手の音。

『さすがですね。面白いものが見れて楽しませてもらいました』

 足音と拍手、そしてこちらの神経を逆撫でするような上から目線の男の声。ひょろりとした体躯の若い男が、薄暗い廊下を通って部屋に入ってきた。

 男はベージュのサマーニットにジーンズ。服装はラフだが粗末には見えない。
着ているニットやジーンズは上等なブランドの商品だろう。金色の時計を嵌めた左手でこれ見よがしに髪を撫で付け、彼は順に悠真達を見た。

『えーっと……そちらから高園悠真さん、木村隼人さん、渡辺亮さん……で合っていますよね?』

彼は悠真、隼人、亮の名を正確に言い当てた。ねじ伏せた監視役の男を拘束したまま悠真が身動ぎする。

『あなたが相澤直輝さん?』
『そう。僕が相澤直輝です。皆さんはじめまして』

 相澤直輝は先ほどの格闘で床に倒れたパイプ椅子を部屋の中央に置き、腰かけた。

『とりあえずそこの二人を離してあげて欲しいな。君達も事情を知りたいでしょう? まずは落ち着いて話をしましょう』
『俺達をここに集めた理由を話してくれるんだな?』
『ええ。ですから乱暴な真似は止めてビジネスライクに話を進めましょう?』

 悠真は隼人と亮と目を合わせる。三人の意志疎通はできた。ここは相澤の言う通りビジネスライクに進めるのが得策だ。

悠真達に拘束を解かれた男達は体の痛みを堪えて相澤の隣に立った。

『お前達はもういい。車で待機してろ』
『はい』

相澤の指示で二人の男が部屋を出る。静まり返る室内で相澤が優雅に片手を差し出した。

『君達も座ってください。座り心地の悪い椅子で申し訳ありませんが我慢してくださいね』

 相澤に促されて悠真達は渋々パイプ椅子に腰かけた。
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