早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
20.スカウトマン(side 亮)
亮が目にした緒方晴の姿からは、普段のお調子者の雰囲気は消え去っていた。いつもはワックスで遊ばせているメッシュ入りの黒髪は雨に濡れ、服も湿っている。
普段の姿が陽気な分、忘れていたが晴は関東イチの暴走族グループ黒龍の元No.3だ。両手に手錠をかけられて無言でこちらに歩いてくる晴の全身から殺気を感じ、亮は身震いした。
『完全にキレてるな。暴走しないといいが……』
晴とは長い付き合いの悠真は豹変した晴を見ても冷静だ。去年、他校の高校生と喧嘩していたところを晴に助けられた経験のある隼人も驚いていない。
殺気立った晴を初めて見るのは亮だけだった。
相澤が立ち上がって両手を広げた。
『やぁ、緒方晴さん。お待ちしていました』
『俺に電話してきたのはあんた?』
ぶっきらぼうな口調もいつもの晴とは違う。
『ええ。電話ではお話しましたが、お会いするのは初めましてですね。僕は相澤直輝と申します。ちょうど今、他の皆さんにも事情をお話していたところです。緒方さんもあちらにお掛けください』
相澤に示された席に晴は無言で腰かけた。椅子の並びは亮、隼人、悠真、晴。真向かいに相澤が座る。
『これで四人揃いました。うん、なかなか圧巻だ。君達の話は以前から聞いていたんです。それで面白い高校生達だなと思ってね』
『俺達のことを聞いた? 誰に?』
隼人が問う。相澤は悠々とした調子で脚を組んだ。
『最初に君達の話を聞いたのは弟からだった。まぁ、その話はまた後にして本題に移ろう。君達四人は容姿に恵まれている。これは君達にとってかなりのアドバンテージだ。それだけでなく頭脳も働き、凡人にはないカリスマ性が備わっている。君達の恵まれた能力を見込んでやってもらいたい仕事があるんだ』
容姿がいいだとか、アドバンテージだとか、そんなことを相澤に評価されても亮はちっとも嬉しくなかった。亮の隣で隼人が舌打ちする。
『あんた、本題だとか言ってるけどくどくどと前置きが長いんだよ。俺達に何をさせたいのかハッキリ言え』
隼人もキレる寸前だった。隼人がキレると危ないことを亮は知っている。
晴と隼人が同時にキレたら、それこそこの場に血の雨が降るかもしれない。
『ははっ。これは申し訳ない。長話はつい癖でね。ではハッキリ言いましょう。君達にはクスリの売人として働いてもらう』
相澤の口調がわかりやすく変化した。態度こそ低姿勢だが言葉は高圧的な命令口調。
(クスリって麻薬とかの“あっち”の方だよな……)
亮がクスリと聞いて最初に浮かぶものは胃腸薬や風邪薬の類いだ。我ながら平凡で幸せな思考回路だと思う。
『断る』
『くだらねぇな』
悠真は即答、隼人は鼻で笑った。晴は無言。亮には無言の晴が一番恐ろしかった。
普段の姿が陽気な分、忘れていたが晴は関東イチの暴走族グループ黒龍の元No.3だ。両手に手錠をかけられて無言でこちらに歩いてくる晴の全身から殺気を感じ、亮は身震いした。
『完全にキレてるな。暴走しないといいが……』
晴とは長い付き合いの悠真は豹変した晴を見ても冷静だ。去年、他校の高校生と喧嘩していたところを晴に助けられた経験のある隼人も驚いていない。
殺気立った晴を初めて見るのは亮だけだった。
相澤が立ち上がって両手を広げた。
『やぁ、緒方晴さん。お待ちしていました』
『俺に電話してきたのはあんた?』
ぶっきらぼうな口調もいつもの晴とは違う。
『ええ。電話ではお話しましたが、お会いするのは初めましてですね。僕は相澤直輝と申します。ちょうど今、他の皆さんにも事情をお話していたところです。緒方さんもあちらにお掛けください』
相澤に示された席に晴は無言で腰かけた。椅子の並びは亮、隼人、悠真、晴。真向かいに相澤が座る。
『これで四人揃いました。うん、なかなか圧巻だ。君達の話は以前から聞いていたんです。それで面白い高校生達だなと思ってね』
『俺達のことを聞いた? 誰に?』
隼人が問う。相澤は悠々とした調子で脚を組んだ。
『最初に君達の話を聞いたのは弟からだった。まぁ、その話はまた後にして本題に移ろう。君達四人は容姿に恵まれている。これは君達にとってかなりのアドバンテージだ。それだけでなく頭脳も働き、凡人にはないカリスマ性が備わっている。君達の恵まれた能力を見込んでやってもらいたい仕事があるんだ』
容姿がいいだとか、アドバンテージだとか、そんなことを相澤に評価されても亮はちっとも嬉しくなかった。亮の隣で隼人が舌打ちする。
『あんた、本題だとか言ってるけどくどくどと前置きが長いんだよ。俺達に何をさせたいのかハッキリ言え』
隼人もキレる寸前だった。隼人がキレると危ないことを亮は知っている。
晴と隼人が同時にキレたら、それこそこの場に血の雨が降るかもしれない。
『ははっ。これは申し訳ない。長話はつい癖でね。ではハッキリ言いましょう。君達にはクスリの売人として働いてもらう』
相澤の口調がわかりやすく変化した。態度こそ低姿勢だが言葉は高圧的な命令口調。
(クスリって麻薬とかの“あっち”の方だよな……)
亮がクスリと聞いて最初に浮かぶものは胃腸薬や風邪薬の類いだ。我ながら平凡で幸せな思考回路だと思う。
『断る』
『くだらねぇな』
悠真は即答、隼人は鼻で笑った。晴は無言。亮には無言の晴が一番恐ろしかった。