早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
『そうすぐに結論を出さないでください。いきなりクスリの売人になれと言われて戸惑うのもわかります。僕はね、新しい事業を始めようと思っているんです。新宿に女性限定のダイニングバーを作る計画がありましてね。店も9割方完成している。君達にはそこのスタッフとして働いてもらいたい。給料はいいですよ。一般的な高校生のバイト以上の給料は保証しましょう』

相澤が隼人に目を向けた。

『もちろん木村さんにはモデルの仕事をそのまま続けてもらってかまいません。渡辺さんも秋の大会を控えていますよね? 大会までは部活優先にしてもらってけっこうです。高園さんと緒方さんもバンド活動は継続していただいて差し支えありません』

 悠真と晴のバンド活動のことだけでなく、隼人の読者モデルのバイト、亮のバスケの大会のことまで相澤は調査済みだった。

だが亮にはまだ相澤の真意が不明だった。女性限定のダイニングバーで働く話とクスリの売人がどう繋がる?

『はっ。まさかその店で俺達が女相手にクスリを売れと言ってるわけじゃねぇよな?』

 相澤を睨み付ける隼人がけだるそうに脚を投げ出した。相澤が嬉々として指を鳴らす。

『その通りです。さすが、木村さんは頭の回転が速い。頭の良い人間はすぐに話が通じて楽でいい。新事業のダイニングバーは表向きは女性限定のバーですが、男が客の女にクスリを売る場として使います。君達は顔は申し分なく弁も立つ。女性相手の接客に向いていますよ。特に木村さん、あなたはね』

隼人は相澤の誘い文句にも意に介さない様子。女好きの隼人ではあるが、違法薬物などの犯罪行為には彼はまったくと言っていいほど興味がない。
煙草は吸っても大麻は吸わない、それが隼人だ。

『さっきから……ふざけたことぬかしてんじゃねぇぞ』

 晴のドスの聞いた声が響いた。室内にピリッとした緊張感が走る。
< 135 / 163 >

この作品をシェア

pagetop