早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
『晴、落ち着け』

 悠真が晴をなだめるが、晴の額には青筋が立ち、今にも暴れだしそうな雰囲気だった。

『女にクスリ売るとか興味ねぇよ。そもそもクスリ自体に興味がない』

隼人が言い切った。相澤は悠真、亮、晴を見る。

『他の皆さんも木村さんと同じ答えですか?』
『もちろん』
『あんたの仕事を手伝う気はねぇよ』
『用が済んだのなら早く失せろ』

 悠真、亮、晴は口々に返答した。相澤は無表情で彼らを一瞥して溜息をついた。

『それは残念だ。まぁ最初からいいお返事は期待していませんでしたよ。君達は無駄に正義感の強いヒーロー気取りな方達ですからね』

 天井の隅に向けて相澤が手招きのようなジェスチャーをする。彼はそこに仕掛けてあるカメラの向こうの存在に何か指示を出していた。

『お前、俺達に喧嘩売ってんの?』

隼人の睨みにも相澤は動じずにせせら笑う。

『先に喧嘩を売ってきたのは君達でしょう?』
『俺達が喧嘩を売った? あんたに何かした覚えはないが』

澄まし顔の悠真もさすがにポーカーフェイスを崩して困惑していた。

『確かに君達に失礼を受けた覚えはないよ。……僕はね』

 また扉の開く音がする。今度はヒールの甲高い足音が近付いてきた。

「はぁーい、先輩達。お久しぶりです」

 ヒールの音を鳴らして部屋に現れたのはショートヘアーを金髪に染めた若い女だ。鮮やかなショッキングピンクのヘソだしキャミソールに迷彩柄のミニスカート、シルバーの厚底サンダル、顔は大きなサングラスで覆われている。

お久しぶりと言われても亮はこの女に見覚えはなかった。隼人も悠真も女を見て眉を寄せる。ただひとり、晴だけは様子が違った。晴は女を睨み付けている。

『お前、誰だ?』

隼人の言葉に女は耳障りな笑い声をあげた。

「ヤダなぁ、木村先輩。もう私のこと忘れちゃったの? あれから1ヶ月しか経ってないのに。他の先輩達も忘れちゃいました?」

 1ヶ月前と言うことは先月にこの女とどこかで会っているらしい。亮は記憶の底を探ってみるが、やはりこの女に心当たりはなかった
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