早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
21.化けの皮(side 隼人)
金髪ショートの女がサングラスを外した。マスカラとアイラインで黒々と縁取られた目元を見ても、この女が何者なのか隼人は思い出せない。
『先輩達は君が誰だかわからないようだよ。可哀想だからナゾナゾの答えを教えてあげれば?』
「そうですね。今の私は先輩達が知ってる私じゃないから仕方ないかぁ。木村先輩、その節はどうも。私のことわかりませんかぁ?」
くねくねと体を揺らして女は隼人の前に立った。女から香る人工的な桃のような安っぽい香水の匂いが鼻をついて噎《む》せそうになる。
わかりませんか? と問われてもわからないものはわからない。
『……兵藤桃子だろ?』
それまで黙っていた晴が口にした名前を隼人は脳裏で反芻した。どこかで聞いた名前だ。
それもこの数ヶ月の間に──。
『あー……思い出した。増田さんに嫌がらせしていたあの女か』
隼人が増田奈緒の名を出すと、金髪の女は笑っていた口元をヘの字に曲げた。
増田奈緒は杉澤学院高校の後輩。中間テストの総合順位で2位をとってしまったばかりに、順位で賭けをしていた女達に目をつけられた不運な女子生徒。
1ヶ月前の期末テストが始まる直前、隼人達は奈緒のクラスメートの兵藤桃子が賭けを仕切っていた黒幕だと突き止め、さらに桃子が奈緒に嫌がらせをしていた真犯人だった。
隼人達に嫌がらせの現場を押さえられた桃子は夏休み前に杉澤学院高校を退学したと聞いている。
(※story2.私の百花繚乱物語より)
『あんた変わったな。そこまで化けられるとわかんねぇよ』
隼人の知る兵藤桃子は黒髪のショートヘアーで化粧をしていない素顔。見た目だけは優等生の風貌だった。
だが今の桃子は金髪のウルフショートに両耳にはフェザーのピアス、濃いメイクで元の素顔は覆われている。
「わかったのは緒方先輩だけみたいねぇ。緒方先輩はどうして私だとわかったんですか?」
『俺の女友達があんたが写ってるプリクラを持ってた。らくがきでMomokoって書いてあった』
晴は喋るのもだるそうに答えた。桃子が現れてから晴の機嫌はさらに悪くなったように思う。
桃子はアイラインで黒く縁取られた目を三日月型に細めた。
「へぇ。私のプリクラ? 誰とのだろぉ。どこで繋がってるかわからないものね」
『蒼汰をハメた“エリカ”はお前だろ?』
『おい、晴。ハメたって何の話だ?』
悠真が肘で晴を小突く。隼人も亮も眉をひそめて晴に視線をやった。
『先輩達は君が誰だかわからないようだよ。可哀想だからナゾナゾの答えを教えてあげれば?』
「そうですね。今の私は先輩達が知ってる私じゃないから仕方ないかぁ。木村先輩、その節はどうも。私のことわかりませんかぁ?」
くねくねと体を揺らして女は隼人の前に立った。女から香る人工的な桃のような安っぽい香水の匂いが鼻をついて噎《む》せそうになる。
わかりませんか? と問われてもわからないものはわからない。
『……兵藤桃子だろ?』
それまで黙っていた晴が口にした名前を隼人は脳裏で反芻した。どこかで聞いた名前だ。
それもこの数ヶ月の間に──。
『あー……思い出した。増田さんに嫌がらせしていたあの女か』
隼人が増田奈緒の名を出すと、金髪の女は笑っていた口元をヘの字に曲げた。
増田奈緒は杉澤学院高校の後輩。中間テストの総合順位で2位をとってしまったばかりに、順位で賭けをしていた女達に目をつけられた不運な女子生徒。
1ヶ月前の期末テストが始まる直前、隼人達は奈緒のクラスメートの兵藤桃子が賭けを仕切っていた黒幕だと突き止め、さらに桃子が奈緒に嫌がらせをしていた真犯人だった。
隼人達に嫌がらせの現場を押さえられた桃子は夏休み前に杉澤学院高校を退学したと聞いている。
(※story2.私の百花繚乱物語より)
『あんた変わったな。そこまで化けられるとわかんねぇよ』
隼人の知る兵藤桃子は黒髪のショートヘアーで化粧をしていない素顔。見た目だけは優等生の風貌だった。
だが今の桃子は金髪のウルフショートに両耳にはフェザーのピアス、濃いメイクで元の素顔は覆われている。
「わかったのは緒方先輩だけみたいねぇ。緒方先輩はどうして私だとわかったんですか?」
『俺の女友達があんたが写ってるプリクラを持ってた。らくがきでMomokoって書いてあった』
晴は喋るのもだるそうに答えた。桃子が現れてから晴の機嫌はさらに悪くなったように思う。
桃子はアイラインで黒く縁取られた目を三日月型に細めた。
「へぇ。私のプリクラ? 誰とのだろぉ。どこで繋がってるかわからないものね」
『蒼汰をハメた“エリカ”はお前だろ?』
『おい、晴。ハメたって何の話だ?』
悠真が肘で晴を小突く。隼人も亮も眉をひそめて晴に視線をやった。