早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
 晴の目の前に華麗に着地を決めた隼人は、余裕の笑みを浮かべる。さっきまで腹部を殴られてグッタリしていた人間とは思えない身体能力の高さに、晴は感嘆した。

『隼人、前世はカンガルーか? なに今のジャンプ。幅跳びのオリンピック選手にでもなる気?』
『とっておきの必殺ライダージャンプ』
『カンガルーじゃなくて実は仮面ライダーかよ!』
『まぁ、あれはバッタだからな』

 軽口を叩いて差し出された隼人の手錠の鍵を外す。これで晴と隼人も参戦だ。

 床にはアルファルドとレグルスのメンバーから取り上げた鉄パイプが散乱する。
黒龍は武器を使わない。喧嘩は素手で、黒龍初代リーダーの氷室龍牙から受け継がれている鉄則だ。

逃げ出した連中を抜くと二十人いたアルファルドとレグルスの残党も半分に減り、大半が唸り声をあげて床に倒れていた。

『素手だとコイツら弱ぇーな。体力もねぇし』
『武器に頼って体鍛えてこなかったんだろ』

 闘いを終えた隼人と悠真は涼しい顔で床に転がる鉄パイプを転がして弄ぶ。隼人が部屋の隅でうずくまる桃子に視線を移した。

『相澤、お前を置いて逃げたな』
「あ……」

 ガタガタと震える桃子は部屋を見渡した。桃子の共犯者の相澤の姿はどこにもない。
怯えた小動物のような目をした桃子はブランド物のハンドバッグを抱えて慌てて立ち上がった。

逃げようとする彼女の行く手を四方八方で晴達が囲む。晴、隼人、悠真、亮、蒼汰、洸、マサル。七人の男に囲まれて桃子は怯えて後退りした。

 隼人が桃子に近付く。

『お前、結局相澤に裏切られてるじゃねぇか。人を裏切った奴は同じように裏切られるんだよ。そこに信頼関係がないからな』
「うるさいっ! それ以上近付かないで! 近付くと死ぬよ」

 ハンドバッグに手を入れた桃子は折り畳みナイフを取り出した。桃子ナイフの刃先を自分に向ける。

ナイフの登場で隼人も動きを止めた。隼人と悠真が目を合わせるが、悠真は首を小さく横に振る。今は手出しするな、の意味だ。
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