早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
 援助交際、学校での賭け事、違法薬物の次はナイフ。桃子をここまで荒ませている原因は何だろう?

『なぁ桃子ちゃん。クラブで俺を逆ナンしたことも、晴のダチ達を相澤の標的にしたのも桃子ちゃんが考えたことじゃねぇよな? 桃子ちゃんに近付いて相澤と桃子ちゃんを引き合わせた奴がいる』

言葉をかける蒼汰を見て桃子が薄く笑う。

「そうよ。それが誰か、黒龍のあんた達はもうわかってるみたいね。“アイツ”からこの計画を持ちかけられたのは私が杉澤を退学した後。でももうおしまい。ことごとく私のお楽しみを潰してくれて。あーあー。この先の人生に楽しいことなんか残ってないじゃない」

 桃子がナイフの柄を強く握った。このままだと目の前で桃子に死なれて最悪の結果を招いてしまう。どうすればいい?

「生きてても意味ない。警察に捕まって刑務所暮らしもまっぴらよ。死んだ方がマシ」

この先に楽しいことが残っていない?
死んだ方がマシ? 生きていても意味ない?

(ふざけんなよ……どうしてそんな悲観的になるんだよ。なんか……悲しいじゃねぇか)

 喉元まで出かけた晴の叫び。言葉を紡ごうとした晴は入り口に現れた人物を見てハッとした。

『桃子! 止めろ』

 桃子を含めた全員の視線が入り口に立つ男に注がれる。視線の先には兵藤桃子の兄、兵藤清孝と刑事の香道秋彦がいた。

黒龍元No.2の香道の顔を見て晴、洸、蒼汰、マサルは安堵の表情に変わる。偉大な先輩の存在は大きかった。

「お兄ちゃん……どうして……」
『ごめんな。俺が父さん達のプレッシャーに負けてリタイアしたから父さんと母さんの期待は全部お前に向いた。父さん達は勉強でしか俺達を評価しない。だからお前は必死で勉強して杉澤に受かって……』

 傷害事件を起こして4年前に杉澤学院高校を退学になった清孝はとび職として働いている。清孝は仕事の作業着のままだ。

「そうだよ! お兄ちゃんのせいでお父さんとお母さんは私に期待を全部背負わせた。一流大学に行って一流企業に就職すること、あの人達は自分と同じ道を私達に歩ませようとしてた。私は本当は保母さんになりたかったのに……その夢を捨ててあの人達の言いなりになった! 全部お兄ちゃんのせいだ!」

 桃子が清孝にナイフを向けるが、清孝は動じず桃子と距離を詰める。かつて不良グループを仕切っていた度胸なのか妹を想う兄の心なのか、清孝の動きには迷いがなかった。
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