早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
『あのままだとヤバくないですか?』
『今はあいつに任せる。万一の時は俺が出ていく』

不安げな洸と蒼汰に香道が力強く頷いた。

「私が杉澤を退学になってあの人達が私に何て言ったと思う? “あんたも脱落者の役立たずね”だって。あの人達にとっては一流のレールを外れた私もお兄ちゃんも役立たずなんだよ! 親に必要とされていない私は生きてても仕方ないの!」

マスカラとアイラインで黒々とした桃子の目から大粒の涙が溢れた。

『父さん達が必要としてなくても兄ちゃんには桃子が必要だ。だから死ぬなよ』
「誰のせいで私がこんな風になったと思ってるの? お兄ちゃんなんか大嫌い!」
『俺は桃子が好きだよ。お前はたったひとりの大事な妹だ』

ナイフを持つ桃子の手を躊躇なく取って清孝は桃子を抱き締めた。ナイフが床に落ちる。

「嫌いだよ……。お兄ちゃんなんか……だいっきらいだよ……」

 清孝にしがみついた桃子は子供みたいにむせび泣いた。桃子の持っていた折り畳みナイフを香道が回収する。

『ひとまずこっちは一件落着だな。……ん? これは……あちゃー。大事な証拠品が……』

 彼は割れて粉々になった注射器を見下ろした。晴が香道に歩み寄る。

『アキさんすいません。それ踏んづけて壊したの俺です……』
『いいよ。お前も必死だったんだよな。鑑識に頼んで回収してもらうさ。で、これからのことだが』

香道が清孝と桃子に視線を移す。清孝にしがみつく桃子はすっかり大人しくなっていた。

『香道さん、桃子は利用されただけなんです。だから……』
『わかってる。だが、いくら利用されていたとしても薬物使用と所持、蒼汰に濡れ衣を着せた罪は消えない。桃子さん、君には相澤についても聞きたいことがある。お兄さんと一緒に警察に来てくれるかな?』

 泣いたせいでマスカラが落ちて目の下が黒く染まった桃子は無言で頷いた。
香道が呼んだ数人の警官が桃子と付き添いの清孝をパトカーまで誘導し、部屋で倒れているアルファルドとレグルスの残党を連行する。

 晴、蒼汰、洸の三人はまだ浮かない顔で成り行きを静観していた。

『晴。黒幕は相澤じゃないのか?』

 悠真が晴に尋ねる。悠真と隼人と亮はまだこの計画の裏側を知らない。晴も洸からのメールで初めて知ったのだから。

『黒幕は相澤……だと思う。でも桃子をけしかけたのは相澤じゃない。相澤の弟だ』
『弟? そう言えば相澤が俺達のことは弟から聞いたって言ってたな。俺達の知ってる奴?』
『悠真も隼人も亮も知ってる奴。賭け事件の時にお前らも会ってるよ』

晴の周りに集まる悠真、隼人、亮は三者三様の表情で晴の言葉を待っていた。晴が重たい口を開く。

『相澤の弟は……黒龍のNo.3だ』


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