早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
 葉山沙羅《はやま さら》は葉山行成と美琴の一人娘。年齢は悠真の5歳下。

 美琴のバイオリン教室の合間、悠真と海斗は教室の庭先で遊んでいた沙羅に声をかけたのが高園兄弟と沙羅のはじまりだった。
悠真は当時小学四年、海斗は小学二年、沙羅は5歳になったばかりだった。

父親が所属するバンド、emperorには他にもメンバーの子供達がいたが、海外にいることが多かった葉山家の娘を高園兄弟はその時に初めて見た。emperorのメンバーの子供は揃って男だらけで、沙羅が唯一の女の子だった。

 沙羅は小さくてふわふわとしていて笑った時のえくぼが可愛い女の子だ。悠真と海斗は一瞬で沙羅に心を奪われた。
それが彼ら兄弟の初恋だった。

高園兄弟と仲良くなった沙羅は悠真のバイオリンのレッスンを見学するようになった。

 ゆうくんの音は優しい音だね
 サラね、ゆうくんの音が大好き
 知ってる? 音には色がついてるんだよ
 ゆうくんの音は綺麗なみずいろ
 あのお空みたいな色なんだよ

沙羅は悠真を「ゆうくん」、海斗を「カイくん」と呼んでいた。

 沙羅と過ごした期間はわずか1年弱。沙羅が小学生になる前に葉山家はアメリカに拠点を移して向こうで生活していた。

 3年前の葉山美琴の葬儀で悠真は久しぶりに沙羅と再会した。母親を亡くして泣きじゃくる10歳の沙羅にかける言葉も見つからない。

 そして高園兄弟を最も困惑させた事実。沙羅は彼ら兄弟のことを覚えていなかった。
アメリカで美琴と暮らしていた記憶は残っているのに、日本にいた5歳から6歳までの記憶が美琴の死後に抜け落ちてしまったらしい。

母親を亡くしたショックを和らげるための一時的な記憶障害と医者の診断が下った。沙羅の欠けた記憶は悠真と海斗と過ごしたあの頃の記憶。もう沙羅の口から“ゆうくん”と呼ばれることは永遠にない。

 美琴の葬儀が終わった後、沙羅は父親の行成とまたアメリカに戻った。今も沙羅はアメリカで暮らしている。
あれから3年。沙羅は13歳になった。
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