早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
 一ノ瀬蓮のドラマがエンディングを迎えたところで莉央がトイレに立った。ベッドに体育座りする麻衣子の横になぎさが腰かける。

三人はお揃いのパジャマを着ていた。渋谷109で購入したパジャマは麻衣子がラベンダーベースに白のハート模様、なぎさがピンクベースに赤のハート、莉央が白ベースに青のハート模様の色違いだ。

「ねぇ麻衣子。莉央って彼氏いるのかな?」
「え?」
「さっき、莉央がお風呂から出てきた時にね、莉央のここに赤いアザって言うか、跡みたいなものがあって、あれはたぶんキスマークだよ」

なぎさはパジャマの襟を少しめくって自分の鎖骨を指差した。

「間違いないの?」
「うーん。もしかしたら虫刺されかもしれないけど……。私も彼氏に付けられたことあるから、キスマークってあんな感じなんだよね」

 なぎさには付き合っている他校の彼氏がいる。初体験をその彼氏と済ませたなぎさは、もう処女ではない。

「今日の莉央は鎖骨が隠せるような襟つきのワンピース着てたでしょ? あれは鎖骨のキスマークを隠したかったのかなって」

麻衣子はキスマークがどんなものか見たことはないが、経験者のなぎさがキスマークだと判断するのなら、間違いかもしれない。

「だけど莉央って、男の子苦手そうじゃない?」
「だから引っかかるって言うか……莉央は自分のことは話したがらないから無理には聞かないけどね」
「そうだね。莉央がもし何か言ってきたらみゃんと聞いてあげよ。莉央ってたまにすごく悲しい顔してるから」
「きっと私達には言えないことがあるのかもね」

 莉央のことは、なぎさが誰よりも理解している。クラスに馴染めずにひとりでいた莉央に声をかけ、莉央とクラスメートの仲を繋いだのはなぎさだ。

莉央もなぎさには誰よりも信頼を置いている。そのなぎさでさえ、踏み込めない領域があるのだ。
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