早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
 お泊まり会から2日後の8月6日。幼なじみの木村隼人の家で毎年恒例のスイカ割り&花火パーティーが開催される日だ。

 スイカ割り大会は先ほど行い、花火パーティーの開始は夕方から。
麻衣子はイベントが始まるまでもうひとりの幼なじみの渡辺亮と共に、隼人の自室で夏休みの課題を片付けていた。

せっかくの機会だ。こういうことはその手の事情に精通している男に聞くのが一番だと思った麻衣子は、隼人と亮を交互に見た。

「キスマークってどうやって付けるの?」
『……は?』

 二人同時にすっとんきょうな声を出して隼人と亮は動きを止めた。室内に妙な静寂が訪れる。

「何よ? 二人して変な顔しちゃって」
『麻衣子……お前、ついに?』
『ええっ? おい、相手は? いつ? ホントなのかっ?』

隼人はじっと麻衣子を見据え、亮は何故か慌てふためいている。

「だからなんでそうなるのよ。もういい。あんた達に聞いた私が馬鹿でした」

 男子高校生の頭の中を躊躇なくさらけ出すこの幼なじみ二人に、年々ついていけなくなっている。麻衣子は大袈裟に肩をすくめた。

『待て待て。勝手に話を終わらせるな。お前がキスマーク付けられたってことじゃないんだな?』
「当たり前でしょ」
『なんだ。じゃあまだ処女か』
「だからそんな話じゃなくて……」
『あーっ! よかった。麻衣子はまだ処女! ったく、びびらせんなよ……』

 冷静に話を進める隼人と焦ったり騒いだりと忙しい亮。亮のように焦ったりしていない隼人を憎らしく思う。

あと、大声で処女を連呼しないでほしい。この幼なじみ二人にはデリカシーというものが欠けている。なんでこの二人が学校では人気があってモテているんだろう?

『それならどうしてキスマークのことを聞く?』

 隼人が真剣な眼差しでこちらを見てくる。隼人は麻衣子がこうされると弱いと確信犯でやっているのだ。ますます憎らしい。

「友達に莉央って子がいるんだけど、その子のここに小さな赤いアザみたいなものがあって」

 麻衣子は自分の鎖骨の辺りを指差した。なぎさにキスマークの話を聞いた翌朝、着替えをする莉央の鎖骨に付いたそれを麻衣子も見つけてしまった。

『ああ、それはキスマークだな』

隼人が即答する。そんなにあっさり答えられると身も蓋もない。

「キスマークがあるってことは、あの、その……。セッ……」
『その? 何だよ。言いたいことはハッキリ言えよ? 麻衣子ちゃん」

その先の言葉を恥ずかしがって言えない麻衣子を隼人はからかって楽しんでいる。この余裕ぶった態度に腹が立つ。

(ムカつくー! 隼人の大魔王! 帝王! サド! セッ……スなんて、私が言えるわけないじゃないっ!)

『試しに俺が付けてやろうか?』
「付けるって……」

 腰を浮かせた隼人が麻衣子に近付く。麻衣子の目には隼人から無駄にフェロモンが駄々もれしているように見えた。

一ノ瀬蓮の写真集の広告ページに上半身裸でベッドに寝そべる一ノ瀬蓮の写真のカットがあったが、上半身裸の一ノ瀬蓮に負けず劣らずのフェロモンが隼人にはある。

(隼人のその無駄な色気はなんなのよ! あんた本当に高校生かっ?)
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