早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
 頃合いを見計らって隼人達はハンバーガーショップを出た。
今日は花火大会がある。何が悲しくて男七人で花火大会に行かなくてはならないのかと、ここに集う全員が口を揃えて言っているが、何だかんだで皆楽しそうだった。

奈緒もバイトの後に例の片想いの相手と花火大会に行くようだ。一緒に花火大会に行けるのなら、奈緒の片想いも案外上手く行くかもしれない。

 地下鉄に揺られて花火大会の会場に向かう。途中で浴衣を着た女子高校生や年上女性の集団から花火に一緒に行こうと誘われ、断りつつも理久と陽平とトオルは女の子達と連絡先を交換していた。

『隼人、なんで今日は女の子に素っ気なかったんだ? さっき逆ナンしてきた子達の本命はお前と悠真だろ』
『女の相手するのが面倒くさかった』
『お前って奴は……確実に全世界のモテない男を敵に回したぞ』

 亮と話しながら隼人はメインの会場に入る。会場となる広場はすでに賑わい、並んだ屋台からは食欲をそそるいい匂いが漂っている。

さっそく屋台でチョコバナナを購入した理久が二本あるチョコバナナのひとつを隼人に差し出した。

『ひとつって言ったのにお姉さんがサービスしてくれたぜ。隼人、食べる?』
『サンキュー』

隼人は理久からチョコバナナを受け取り、かじりついた。甘いチョコとバナナの味が口に広がる。

『まったりしてていいよなぁ。THE、青春って感じ』

陽平が芝生に寝そべってしみじみと薄暗くなる空を見上げた。

『今年の夏は大変だったなぁ』

 屋台で買った焼きそばを掻き込む晴も呟く。悠真は持参した扇子を扇《あお》ぎ、他の者達もそれぞれ食べ物片手に空を見上げた。

 ヒューっと甲高い音の後にパァン……と夜空に花が咲く。何発も続けて打ち上がる花火に隼人達は見入った。

 晴の言うとおり、今年の夏は色々と大変だった。

梅雨真っ只中に起きたテストの賭け事件。
晴の追試勉強に付き合った夏の始まり。
謎の男達に尾行され、駅まで全力疾走した終業式。
相澤直輝に拉致監禁された夏休み。

ここまで色々と詰め込まれたエキサイティングな夏はもう二度と訪れないかもしれない。

(そういえば、行方不明って言ってた麻衣子の友達、どうなったんだろ)

 最近、幼なじみの麻衣子の友達が行方不明になった。盆休み辺りから突然連絡が取れなくなったそうだ。
名前がリオと言うその友達は、例のキスマークの主。

事情はわからないが、麻衣子の沈んだ顔は見たくない。夏休みが終わる前に息抜きにバイクに乗せてどこかに連れ出そう。

 もがいて苦しんで騒いで楽しんだ、彼らの高校生活最後の夏休みがもうすぐ終わる。
彼らはこの夏に何を失って、何を手に入れただろう?

空虚と幻惑のサマーバケーション、2002。



早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ END
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