早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
小学生の頃から隼人と京介を指導している監督の見解が聞きたかった。監督は黙って隼人の話を聞き、彼の気持ちを受け止めた。
『隼人……お前はな……』
隼人の話を聞き終えた監督が悲痛な表情で口を開く。監督から何を言われるのか内心ビクついていた隼人の耳に聞こえてきた言葉は予想外の言葉だった。
『完璧過ぎるんだ』
完璧過ぎると言われて拍子抜けした隼人にさらに監督は言う。
『お前のサッカーは完璧なんだ。動きや判断がまったくブレない。完璧で綺麗としか言いようがない』
『じゃあ……どうして俺じゃなかったんですか?』
監督の言葉の意味がわからない。
『完璧過ぎるからだ。だからお前は選ばれなかった』
『そんなの意味がわかりません!』
『何故、海外留学制度があるか考えてみろ。可能性のある選手を海外でプレーさせてその可能性を広げるためだろ? でもな、完璧で既に完成されたものはどんなに頑張ってもそれ以上は伸びない。そこ止まりなんだ』
『俺には可能性がないってことですか?』
握り締めた拳が震えていた。
『協会がそう判断したんだ。ここだけの話だが協会は隼人か京介かどちらを選ぶかでかなり揉めたらしい。でも協会は京介を選んだ。京介のプレーはまだいびつで未熟な分、可能性がある。そこがお前と京介の違いだ。俺はお前の無駄のない完璧なサッカーが好きだ。だからこそ言うがお前のサッカーはこれ以上伸びない』
──お前のサッカーはこれ以上伸びない──
京介が選ばれた理由や京介に負けたことよりも、自分にはこれ以上の可能性がないと言われたことが何よりもショックだった。
この先サッカーを続けていてもきっと“優等生”の枠組みから抜け出せない。監督の言葉の意味がわかった。
試合では隼人は安全策しかとらない。確実に点を取れるように、無茶をする時はまず頭で理想プレーを描いて確実だと思えば実行に移す。脚を動かしながら頭を動かす、それが隼人のやり方だった。
でも京介は隼人とは正反対。京介はその場の成り行きで考え無しのプレーをして、いつもそのプレーが得点に繋がっている。
監督は頭で考えて全体を見ることのできるプレーヤーも必要だと語った。隼人は司令塔となる指導者に向いているとも監督は言っていた。
だけど隼人がなりたいのは指導者ではなく、一流のフィールドでプレーをする一流の選手。
しかし協会側が求めていたのはいざと言うとき無限の力を発揮できる京介のような選手だった。最初から勝敗は決まっていたようなものだ。
監督に話を聞いた夜、何年振りかで隼人は大泣きした。男が泣くのは情けないしカッコ悪い……自分でもそう思う。それでも彼はひとりで涙を流した。
そして隼人はサッカーを捨てた。
『隼人……お前はな……』
隼人の話を聞き終えた監督が悲痛な表情で口を開く。監督から何を言われるのか内心ビクついていた隼人の耳に聞こえてきた言葉は予想外の言葉だった。
『完璧過ぎるんだ』
完璧過ぎると言われて拍子抜けした隼人にさらに監督は言う。
『お前のサッカーは完璧なんだ。動きや判断がまったくブレない。完璧で綺麗としか言いようがない』
『じゃあ……どうして俺じゃなかったんですか?』
監督の言葉の意味がわからない。
『完璧過ぎるからだ。だからお前は選ばれなかった』
『そんなの意味がわかりません!』
『何故、海外留学制度があるか考えてみろ。可能性のある選手を海外でプレーさせてその可能性を広げるためだろ? でもな、完璧で既に完成されたものはどんなに頑張ってもそれ以上は伸びない。そこ止まりなんだ』
『俺には可能性がないってことですか?』
握り締めた拳が震えていた。
『協会がそう判断したんだ。ここだけの話だが協会は隼人か京介かどちらを選ぶかでかなり揉めたらしい。でも協会は京介を選んだ。京介のプレーはまだいびつで未熟な分、可能性がある。そこがお前と京介の違いだ。俺はお前の無駄のない完璧なサッカーが好きだ。だからこそ言うがお前のサッカーはこれ以上伸びない』
──お前のサッカーはこれ以上伸びない──
京介が選ばれた理由や京介に負けたことよりも、自分にはこれ以上の可能性がないと言われたことが何よりもショックだった。
この先サッカーを続けていてもきっと“優等生”の枠組みから抜け出せない。監督の言葉の意味がわかった。
試合では隼人は安全策しかとらない。確実に点を取れるように、無茶をする時はまず頭で理想プレーを描いて確実だと思えば実行に移す。脚を動かしながら頭を動かす、それが隼人のやり方だった。
でも京介は隼人とは正反対。京介はその場の成り行きで考え無しのプレーをして、いつもそのプレーが得点に繋がっている。
監督は頭で考えて全体を見ることのできるプレーヤーも必要だと語った。隼人は司令塔となる指導者に向いているとも監督は言っていた。
だけど隼人がなりたいのは指導者ではなく、一流のフィールドでプレーをする一流の選手。
しかし協会側が求めていたのはいざと言うとき無限の力を発揮できる京介のような選手だった。最初から勝敗は決まっていたようなものだ。
監督に話を聞いた夜、何年振りかで隼人は大泣きした。男が泣くのは情けないしカッコ悪い……自分でもそう思う。それでも彼はひとりで涙を流した。
そして隼人はサッカーを捨てた。