早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
 菜摘の携帯電話に母から今晩はすき焼きにするから足らない材料を買ってきてとメールが入り、二人は帰り道にスーパーに立ち寄る。

『二本でいいだろ』
「ダメ! ネギはたくさんがいいからこっち! 食べ盛りの隼人と翼がいるんだから食材はいくらあっても足らないでしょ」

スーパーの野菜売り場で二本入りのネギと三本入りのネギのどちらにしようかで口論する姉と弟。結局三本入りのネギが買い物カゴに収まった。

「あっ、隼人ー。お菓子欲しい」

 菓子売り場で菜摘が隼人の服の裾を引っ張って菓子をねだる。これが21歳になる医大生だとは隼人も信じがたい。

『なんでも好きなものどうぞ』

 隼人が持つ買い物カゴに菜摘が選んだお菓子がどんどん放り込まれていく。隼人と菜摘の様子を見ていたレジの店員が若いっていいねぇと笑っていた。

(あのレジのおばちゃん、絶対に俺と姉貴が恋人だって勘違いしてる。おばちゃん違うんだ。この変な女は俺の姉だ……)

ショッピングモールでも店員や他の客達に姉を恋人と勘違いされていたのかもしれない。勘弁してほしいものだ。

 その夜は家族五人ですき焼きを食べ、久々に菜摘と弟の翼と三人でテレビゲームをして5月最後の日曜日が終わった。

心配して帰って来てくれた姉。あんなにフリーダムな姉だけど、いい姉だとは思う。
ありがとう、とは照れ臭くて直接は言えないけれど。でも、“ありがとう”。
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