早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
 晴はマイペースに見えて機転の利く男だ。

『高園は作曲もできるのか?』
『知り合いに作曲家がいてその人に教えてもらったんだ。LARMEの曲はすべて俺が作ってる』
『その知り合いの作曲家は下にいるサトルさんの仲間だ。このスタジオも元々はサトルさんが仲間と使っていた場所を俺達が貰い受けたもの』

サトルは楽器屋の店主、仲間が作曲家……

『サトルさんもバンドやってたのか?』
『サトルさんは……』

 晴が悠真にアイコンタクトをとる。晴からのアイコンタクトに応えた悠真が頷いて口を開いた。

『emperor《エンペラー》ってバンド知ってるか?』
『emperor……ああ、10年くらい前に解散したバンドだろ? 親父がファンで今もよく聴いてるよ』

 emperorは1980年代に爆発的な売上を記録した伝説のロックバンド。今でもラジオのリクエスト曲や有線、音楽番組の名曲特集でその名前と楽曲を耳にする機会は多い。

隼人の父親がemperorのファンと知った悠真と晴は目を合わせて微笑した。陽気な晴と違って第一印象からクールなイメージのあった悠真がこんなに柔らかく笑うことが意外だった。
悠真が話を続ける。

『emperorは1979年にデビューして90年に解散してる。メンバーは四人。ボーカルのKEI、ギターのYUKINARI、ベースのSATORU、ドラムのTSUKASA。四人全員が本名年齢非公表、メディア露出は一切しない、ライブハウスでしかemperorの姿を見ることはできない。解散した今は一部のメンバー以外は正体不明のロックバンド。……ここまで言えばもうわかるだろ?』

 emperorのメンバーで隼人がひとりだけ心当たりのある名前があった。
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