早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
なるほど、そういうことか。

『ベースのSATORUってことはサトルさんがemperorのSATORU?』
『ピンポーン! 大正解!』

 晴が人差し指を立てて左右に振る。悠真がスチールラックに並ぶCDの中からCDを何枚か抜き取って隼人に渡した。
CDは父親の部屋で見たことがあるジャケットだ。

『サトルさんはemperorのベーシストでリーダーだった。俺が作曲を教わったサトルさんの仲間はemperorギタリストのYUKINARIさん。彼は今は本名の葉山《はやま》行成《ゆきなり》としてアーティストの作曲を手掛けている。emperorメンバーで本名を知られているのはYUKINARIさんだけだ』

 邦楽は聴かない隼人も父親の影響でemperorの曲はよく聴いている。胸に突き刺さる歌詞と攻撃的なのに繊細なサウンド、惜しまれつつ解散した伝説のロックバンド。
解散から10年が経つ今でも多くのファンに支持され続けている。

葉山行成の名前も最近よく耳にする。有名アーティストの楽曲を多く手掛ける売れっ子の音楽プロデューサーだ。

『emperorと知り合いってすげぇな』
『それは俺の父親もemperorのメンバーだからさ』

 悠真の衝撃発言に驚いた隼人は手に持っていたemperorのCDを落としそうになった。

『まじ?』
『まじ。emperorのボーカルのKEIの本名は高園圭。俺の父親』
『お前……芸能人の息子だったのかよ』

今日は彼らに何度も驚かされる。隼人はemperorのCDをしげしげと見つめた。

『父さん達は本名を公表せずに活動していたからemperorのKEIが活動期間中に結婚したことも子供……つまり俺と弟が生まれたことを知る人も少ない。音楽業界の限られた人間しか知らないことだ。他のメンバーも同じ。活動期間中に全員が既婚者になって子持ちだったけどプライベートな情報は世間に流れていない』
『徹底してるな』

 モデルの仕事を少しかじっているだけの隼人は芸能界には深入りしていない。
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