早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
『君達、何してるの?』

 突如、背後から声が聞こえて場の空気が変わった。目の前にいる巻き髪の子は目を見開いて私の後ろに視線を彷徨《さまよ》わせている。

「木村先輩と緒方先輩っ!」

黒髪ロングヘアーの子とショートヘアーの子が口を揃えてその名を呟いた。え、今、木村先輩って言った?

 背後でふわりと香る甘くて色っぽくてスパイシーな香り。この香りは木村先輩の香水の匂い……って……ええええええ? まさか……?

『女の子がこんな乱暴なことしちゃダメだよ? せっかく可愛い顔してるのに台無しだ』

右肩に置かれる手、背中に感じる体温、顔を後ろに向けるとそこにあの……杉澤トップ4にして生徒会副会長で私の好きな人……木村隼人が立っていた。

「えっと……その……」

 木村先輩に腕を掴まれた巻き髪の子は真っ赤な顔をして先輩に触れられた手首をもじもじと触っている。
その仕草はさっきまで私を睨み付けていた怖い女の子ではなく、恋する女の子のように見えた。

『そっちの子達は人の荷物漁る趣味でもあるのー?』

今度は緒方先輩が陽気な笑みを浮かべて私のカバンを持つ黒髪ロングの子と財布を持つショートヘアーの子を見ている。

緒方先輩、顔はニコニコ笑っているのに声がめちゃくちゃ怖いです……。やっぱり緒方先輩が元暴走族って噂は本当だったんだ。

 三人の女の子の顔がひきつっていく。さらに足音が近付いてきた。

『もう校舎も閉まる時間だよ。早く帰りなさい』

 チャリンチャリンと鍵束を指で回しながらこちらに歩いて来たのは高園生徒会長。渡辺先輩を除いた杉澤学院のトップ3が私達の周りに集まっている。
何……何が起きているんだっ?

黒髪ロングの子が持つ私のカバンにショートヘアーの子が財布を戻して、私に押し付けるようにしてカバンを返して来た。

『帰り道気を付けてね』

 三人に笑いかける木村先輩。きゃー! その笑顔は反則ですよっ! でも緒方先輩と同じように木村先輩も顔は笑っていても雰囲気は冷たくて少し怖い。

「は、はい! 失礼します……!」

巻き髪の子が二人に目配せをして三人は裏門に向けて一目散に走り去った。
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