早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
 生徒会室は旧校舎の三階にある。一番奥の部屋のプレートに生徒会室と書いてあった。ここまで来たのは初めてだ。

『さ、入って』
「失礼します……」

 鍵を開けた高園先輩が生徒会室に入るように促す。生徒会室なんて華々しい場所、地味で臆病者の私には一生無縁な場所だと思っていた。

生徒会室は普通の教室と変わらない広さがある。机や長テーブルがあったりパイプ椅子が積まれていたりと特別教室と別段変わらないように見えるのに、大きなソファーが二組置かれているのは異質だった。

『そこのソファーに座っててね。何か飲む? って言ってもコーラとポカリしかねぇな。もっと気の利いたもの用意しておけばよかった。……おい、なんでアイスが入ってんだよ』

 高園先輩が小型の冷蔵庫を覗き込んでいる。……いや、あの……ちょっといいですか? この大きなソファーも凄いけど生徒会室に冷蔵庫があるのも凄いよ……?
うちの学校は私立じゃないのに、こんなもの誰が持ってきたんだろう……?

『あ、そのアイス俺のー。悠真、アイスちゃんこっちにカモン』
『悠真ー、俺はコーラな』

アイスを手招きする緒方先輩と、木村先輩は窓際の揺り椅子に座ってコーラを所望した。高園先輩が舌打ちする。

『アイスもコーラも自分で取りに来い。俺はお客様の注文を聞いてんだよ』

 高園先輩って、集会で皆の前で話をするときには大人っぽい口調なのに木村先輩達といる時はこんな砕けた話し方するんだなぁ。
三人のやりとりが面白い。緒方先輩も生徒会役員じゃないのにここに馴染んでいる。

「えっと……ポカリで……お願いします……」
『うん、ポカリね。待っててね』

本当は自分で注ぎたいくらいよ! だってあの高園生徒会長にポカリを注いで持ってきてもらうとはなんて贅沢な!

 高園先輩がポカリを注いだグラスを渡してくれた。恐縮して受け取り、冷たいポカリを喉に流す。泣きじゃくってカラカラになっていた喉が生き返る気分だった。

 私がポカリを飲んで一息ついた頃に誰かの携帯電話の着信音が鳴った。木村先輩が携帯を片耳に当てる。

『お疲れー。……今? 生徒会室にいる。ちょっとした野暮用で。悠真と晴も一緒。あー……説明面倒だからお前も来いよ。……そう。じゃーな。……今から亮もこっち来るって』

電話を終えた木村先輩が私の真向かいに座る高園先輩に告げた。亮……ってことは今の電話の相手は渡辺先輩?
渡辺先輩もここに来るの? そうしたら杉澤イケメントップ4が揃っちゃうじゃない! 私の心臓保つかな……。

渡辺先輩ファンの亜矢が知ったら羨ましがられそう。

『二年生だよね。クラスと名前教えてもらっていいかな?』
「2年2組の増田奈緒です」

 高園先輩に聞かれて名前を名乗ったけど、木村先輩の前ではできれば名乗りたくなかったよぉ……。

『増田奈緒さんね。……もしかして園芸部の部長さん?』
「そうですけど、どうしてわかったんですか?」
『どこかで見た顔だとは思っていたんだ。きっと部長会の時だね。三年ばかりの部長の中に園芸部はひとりだけ二年生だったから印象に残ってたんだよ』

月イチの部長会に出席する私の顔を高園先輩は覚えていてくれた。なんだかとても嬉しい。

『さっきのこと、事情を話してもらえる?』
「……はい」
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