早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
 高園先輩の指示通りに全校生徒が昼休み終了後の予鈴の前に体育館に集まっていく。
クラス順に整列して点呼を終えると、高園先輩が壇上に上がった。高園先輩の隣に木村先輩が並ぶ。

 本鈴のチャイムと同時に高園先輩がマイクを握った。

『皆さん、お集まりいただきありがとうございます。期末テストを来週に控え、貴重な授業時間を潰してしまったことをまずはお詫びします』

高園先輩が軽く頭を下げた。体育館は静まり返り、全校生徒が彼の言動に注目している。

『ですが僕達生徒会には、どうしても期末テストが始まる前に皆さんにお伝えしたいことがあります。これはテストの後では意味がありません。よってこのタイミングになってしまったことをご理解ください。……我が校で行われる定期テストの成績上位者の順位が貼り出されることは皆さんには周知だと思います』

高園先輩が一拍置いて言葉を続ける。高園先輩の声は穏やかなトーンで滑舌もいい、聞いていて心地いい声。

『そしてこれもすでに周知の事実となっていますが、一部の生徒が定期テストの順位で賭け事をしていることが生徒会の調査で判明しました』

 生徒達がざわついた。定期テストの順位で行われている賭け事は知っている生徒と知らない生徒がいる。
私もあの三人組に賭け事の件を知らされるまでは裏でそんなことが起きているなんて知らなかった。

『皆さん落ち着いて。静かに』

 マイク越しに聞こえた木村先輩の鋭い声にざわついていた体育館が一気に静かになった。全校生徒を一言で黙らせてしまう木村先輩……凄い。
静かになった頃合いを見て再び高園先輩が口を開く。

『以前から定期テストの順位が賭け事の対象にされているとの報告は生徒会に寄せられていました。僕達が独自に調査したところ、昨年の二年生と一年生、つまり今の三年生と二年生の間で賭け事が実施され、賭けで動いた金額は昨年から前回の中間テストまでを合わせて数十万単位に上ります』

高園先輩の後に今度は木村先輩が言葉を放つ。

『具体例を挙げてみましょう。ある二つのグループがあります。Aグループが定期テストで田中さん……ここは仮名とさせていただきます。田中さんが1位になれば2万と賭け、Bグループは鈴木さんが1位と予想して2万賭ける。結果は田中さんが1位。負けたBグループはAグループに2万支払う……実際にこのよなことが幾度も続き、無関係な生徒を巻き込んだ恐喝騒ぎも起きています。生徒会としてはこのような事態を見過ごせません』

 高園先輩と木村先輩の静かなる怒りで蒸し暑いはずの体育館が冷え冷えとした空気に包まれる。
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