早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
 一階と二階の間の階段の踊り場で渡辺先輩と緒方先輩が私達を待っていた。

『ナイスタイミング。今日放課後に増田さんが残っていて良かったのかも』

緒方先輩が木村先輩と高園先輩に挟まれている私に視線を向けた。木村先輩がひとつ息を吐き、全員の顔を見回す。

『じゃ、行くか』
『いざ出陣ー!』
『晴、声でかい』
『晴は普通の声量でもバカでかいからな』
『おい亮っ! バカでかいとは何だ!』

状況についていけないのは私ひとり。四人の先輩達は何も説明してくれない。

 二年生の教室のある二階に到着した。先を行く先輩達が2年2組、私の教室の前で立ち止まる。閉められた教室の扉を木村先輩が勢いよく開けた。

皆が帰った後の放課後の教室にいたのは──。

「……桃子ちゃん?」

 教室で桃子ちゃんが立ち尽くしていた。彼女が立っているのは私の席がある辺り。

「先輩、これって……」
『増田さんの教科書やノートが盗まれ始めたのは中間テストの順位が貼り出された翌日だったよな?』

木村先輩が小さな溜息をついて私を見た。私は彼に頷き返す。

『増田さんの話を聞いた時からおかしいとは思った。これまでも順位の変動で賭けが成立しなかった奴らが変動の原因となった生徒に嫌がらせをすることはあった。だが、俺達が知る限りは嫌がらせはほとんどが金を要求する恐喝だった。増田さんのように持ち物が盗まれるケースはなかったんだ』

木村先輩、高園先輩が教室の中央に進む。渡辺先輩と緒方先輩は教室の前と後ろの二つの出入口を塞ぐようにして立っていた。

 私は教室の隅に呆然と立ったまま、耳は木村先輩の話を、目は桃子ちゃんを見ていた。桃子ちゃんはハサミを握っている。
私の机の上には切り刻まれたノートが散らばっていた。

「桃子ちゃんが嫌がらせの犯人……?」

目の前の光景が信じられず、誰に問うでもなく独り言を呟く。桃子ちゃんは無言で私を睨み付けている。

『増田さんへの嫌がらせもテストの賭けも黒幕は兵藤桃子、お前だ』

 木村先輩に名指しされた桃子ちゃんは舌打ちをしてから笑い出した。

「厄介な奴らが生徒会長と副会長になっちゃったなぁとは思ってたけどホントあんた達、邪魔」

木村先輩と高園先輩を威嚇する桃子ちゃんは私が知る彼女とは口調も表情も別人だった。

「どうしてこんなこと……? 本当に桃子ちゃんが私の教科書盗んだり嫌がらせしてたの?」

震える足で一歩前に進み出た。桃子ちゃんはまた舌打ちして声を荒くする。

「あーあーあーっ! あんたのそういうところ苛つく。ちゃっかり生徒会まで味方につけて。まじにうざい」

 桃子ちゃんの声に肩がビクッと震えた。彼女に近付こうとした私を木村先輩が背中に隠した。
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