早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
 晴は賭け事件を言い訳にはしたくなかった。賭け事件の調査で勉強時間がとれなかったのは二人も同じ。

しかし悠真も隼人も、共に動いていた渡辺亮も、ちゃんと期末テストをクリアしている。自分だけテスト勉強が出来なかった言い訳にはならない。

『ははっ。いやー、あのですね、授業は真面目に出てたんだけどこう、授業の内容が右から左にスー……っと流れていくと言いますか……痛っ! 隼人ー、手加減しろよぉ……』
『右から左に流すんじゃねぇ。中央の脳ミソに貯めなきゃ意味ねぇだろバカ』

 丸めた教科書で隼人が晴の頭を叩き、晴は顔をしかめて頭を押さえた。その様子を遠巻きに眺めていた晴の担任の山田教諭(数学担当、推定年齢50歳)が笑っている。

『高園ー、木村ー。緒方はなんとかなりそうか?』
『なんとか……するしかないですよね……』

悠真は晴の点数によっぽど絶望しているようで、珍しく歯切れが悪い。隼人も苦笑いしていた。

『あははっ。後はお前達に任せるよ。緒方、学年トップの二人が友達で良かったなぁ。追試は来週の金曜だから、よろしくなー』

 豪快に笑って山田教諭が教室を去った。困った時の友達頼み。悠真と隼人は晴の追試勉強を見てやってくれと山田教諭直々に頼まれていた。

『理系はまだいいとして問題は文系か。どうやったら英語で14点なんかになるんだ?』

 晴の英語の答案用紙を見た隼人は正解数の少なさに愕然としていた。悠真がルーズリーフに定規を当てて几帳面に線を引き、来週木曜日までの日付を書き込んだ。

『文系は隼人に任せる』
『OK。晴、今から俺らが追試までのカリキュラム組むからそれに従って勉強やれよ』
『おう。悠真様! 隼人様! ワタクシ一生ついていきます!』
『追試終わるまでドラム禁止な』

 カリキュラムの表を作る悠真がさらりと言った。晴は口を開けて数秒間、まばたきを繰り返す。

『まじかよっ? ムリムリムリ! 俺ドラム叩けなくなったら死ぬ!』
『勝手に死んでろ』
『骨は拾ってやる』

晴の抗議もお構い無しに悠真と隼人はカリキュラム作りに集中していた。

 七夕も過ぎて蝉の鳴き声が聴こえる7月10日。今日から追試までの1週間、夏休みを手に入れるために晴の地獄の猛勉強が始まった。

悠真と隼人の容赦ないスパルタの教えで晴の頭には英語の文法や数学の公式、物理の法則……色んな言葉がグルグルと回りパンク寸前だった。
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