早河シリーズ序章【白昼夢】スピンオフ
その電話は追試3日前の7月16日の火曜日、放課後にファミレスで隼人と勉強をしている時に突然かかってきた。
『晴の携帯じゃねぇ?』
『あ……ホント。電話だ』
晴の携帯電話がバイブ音を鳴らしている。メールではなく着信の表示だった。
『少し休憩にするから出ろよ』
『悪いな』
携帯を持ってファミレスの席を立った晴はトイレの前の通路で通話ボタンを押す。
『もしもーし』
{晴さん。すみません。今からこっちに来てもらえませんか?}
電話をかけてきたのは黒龍時代の後輩の拓《たく》。晴が黒龍を抜けてからは黒龍で現在三番手の位置にいるのが拓だ。
切羽詰まった拓の様子に嫌な予感を感じた。
『何かあったのか?』
{蒼汰《そうた》さんが警察に連れて行かれました}
『蒼汰が? あいつ何かやらかしたの?』
蒼汰は黒龍のNo.2。晴の相棒だ。
{それが……蒼汰さんがクスリをやったって……}
『蒼汰がクスリ? そんなのあるわけねぇよ。黒龍には掟があるんだから}
黒龍には五ヶ条の掟がある。
①街での迷惑行為はしない。
②喧嘩上等。売られた喧嘩は買って勝つ。
③仲間と女は大切に。子供とお年寄りに優しく。何かあれば身を挺して守る。
④酒、煙草はバレないように。証拠隠滅絶対。覚醒剤などのドラッグは厳禁。
⑤高校は必ず卒業すること。
この掟を破った者は即、破門。こんな掟を定めている黒龍は暴走族の中でも異質な存在だ。
掟のおかげで黒龍のメンバーはこれまで補導はされても逮捕者はゼロ。
すべては今では立派な弁護士として活躍する黒龍初代リーダー、氷室龍牙の統制あってのことだ。
{でも警察に連行されちまったんですよ}
『洸《こう》はどこにいる?』
{いつもの場所に。晴さんもこっち来てもらえますか?}
『わかった。今渋谷だから悪いけど誰か迎えよこしてくれない?』
{マサルさんが迎えに行くそうです}
『了解。渋谷駅で待ってる』
電話を切っても晴はまだ混乱していた。状況がまったく掴めないが、とにかく黒龍の仲間達と合流しないことには話が見えない。
晴は隼人の待つ席に戻り、隼人に頭を下げる。
『ごめん。今日の勉強はこれで終わりにしてくれ。急用ができた』
隼人は晴をじっと見つめ、アイスコーヒーのストローをくわえる。晴の真剣な眼差しに何かがあると彼は悟った。
『わかった。お前がいない間にこれまとめておいたから、ちゃんと見ておけよ』
何か言いたげな素振りをしながらも隼人は英語のノートを晴に向けて放る。晴は両手でノートを持ち上げ、また頭を下げた。
『隼人ありがとう』
『……気を付けろよ』
『ああ。行ってくる』
ファミレスを飛び出した晴を見送った隼人はその場で悠真にメールを送る。この胸騒ぎが取り越し苦労ならば良いと願いながら。
渋谷のファミレスを出た晴は渋谷駅まで全力疾走した。隼人は勉強会が中止になった理由を詮索しなかった。
彼は無理に聞き出さない、詮索しない。黙って送り出してくれた。
木村隼人とはそういう男だ。
7月の夕方。空はピンクとラベンダー、アイスブルーのグラデーション。夏の闇夜がすぐそこまで迫っていた。
『晴の携帯じゃねぇ?』
『あ……ホント。電話だ』
晴の携帯電話がバイブ音を鳴らしている。メールではなく着信の表示だった。
『少し休憩にするから出ろよ』
『悪いな』
携帯を持ってファミレスの席を立った晴はトイレの前の通路で通話ボタンを押す。
『もしもーし』
{晴さん。すみません。今からこっちに来てもらえませんか?}
電話をかけてきたのは黒龍時代の後輩の拓《たく》。晴が黒龍を抜けてからは黒龍で現在三番手の位置にいるのが拓だ。
切羽詰まった拓の様子に嫌な予感を感じた。
『何かあったのか?』
{蒼汰《そうた》さんが警察に連れて行かれました}
『蒼汰が? あいつ何かやらかしたの?』
蒼汰は黒龍のNo.2。晴の相棒だ。
{それが……蒼汰さんがクスリをやったって……}
『蒼汰がクスリ? そんなのあるわけねぇよ。黒龍には掟があるんだから}
黒龍には五ヶ条の掟がある。
①街での迷惑行為はしない。
②喧嘩上等。売られた喧嘩は買って勝つ。
③仲間と女は大切に。子供とお年寄りに優しく。何かあれば身を挺して守る。
④酒、煙草はバレないように。証拠隠滅絶対。覚醒剤などのドラッグは厳禁。
⑤高校は必ず卒業すること。
この掟を破った者は即、破門。こんな掟を定めている黒龍は暴走族の中でも異質な存在だ。
掟のおかげで黒龍のメンバーはこれまで補導はされても逮捕者はゼロ。
すべては今では立派な弁護士として活躍する黒龍初代リーダー、氷室龍牙の統制あってのことだ。
{でも警察に連行されちまったんですよ}
『洸《こう》はどこにいる?』
{いつもの場所に。晴さんもこっち来てもらえますか?}
『わかった。今渋谷だから悪いけど誰か迎えよこしてくれない?』
{マサルさんが迎えに行くそうです}
『了解。渋谷駅で待ってる』
電話を切っても晴はまだ混乱していた。状況がまったく掴めないが、とにかく黒龍の仲間達と合流しないことには話が見えない。
晴は隼人の待つ席に戻り、隼人に頭を下げる。
『ごめん。今日の勉強はこれで終わりにしてくれ。急用ができた』
隼人は晴をじっと見つめ、アイスコーヒーのストローをくわえる。晴の真剣な眼差しに何かがあると彼は悟った。
『わかった。お前がいない間にこれまとめておいたから、ちゃんと見ておけよ』
何か言いたげな素振りをしながらも隼人は英語のノートを晴に向けて放る。晴は両手でノートを持ち上げ、また頭を下げた。
『隼人ありがとう』
『……気を付けろよ』
『ああ。行ってくる』
ファミレスを飛び出した晴を見送った隼人はその場で悠真にメールを送る。この胸騒ぎが取り越し苦労ならば良いと願いながら。
渋谷のファミレスを出た晴は渋谷駅まで全力疾走した。隼人は勉強会が中止になった理由を詮索しなかった。
彼は無理に聞き出さない、詮索しない。黙って送り出してくれた。
木村隼人とはそういう男だ。
7月の夕方。空はピンクとラベンダー、アイスブルーのグラデーション。夏の闇夜がすぐそこまで迫っていた。